小説『愚行録』ネタバレ感想

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妻夫木聡、満島ひかり主演で実写映画化で話題になっている本作。
慟哭」「乱反射」で有名な貫井徳郎さんの作品です。

本作について、まったくの前提知識を持たずにみたんですが、手に取ってみようとおもったきっかけはやはり映画版のポスター。
僕は満島ひかりという女優さんが大好きなんです。
満島ひかりってコメディーや普通の恋愛モノにももちろん出てるんですけど、やはり出世作が園子音の『愛のむきだし』っていうこともあって、かなり”暗黒”な魅力があるじゃないですか。
今回妻夫木聡と共演ということで、この二人の競演と言えば「悪人」っていう映画があって。
主演ではなかったけど、あのときの満島ひかりも、まぁスゴかったじゃないですか。
で、今回の満島ひかりはどうなのかな~って思うんですが、ポスターを見る限りはどう考えてもコメディーや恋愛モノの満島ひかりではないじゃないですか!
これはもう、どう考えても”ひかり”要素ないですよ。満島やみの方ですよ!
というわけで、この映画が見たい!という感情よりも先に、満島やみのこの顔を引き出すストーリーってどんなものなんだろう?っていう感情が来てしまって、原作小説に手を出してしまいました。

物語の構成としては、主人公であるルポライターの取材インタビューという形になっていて、いわゆる”地の文”はありません。
ある未解決の一家惨殺事件を調べているルポライターが関係者数名への取材を重ねて、事件を、そして被害者家族を多角的に描いていく物語です。
また、各インタビューの合間には正体が明かされないある女性から兄への語りかけが掲載されます。
さらに、本の一番最初にある事件の報道記事が掲載されており、このたった1ページの記事もまた本作における重要な要素です。
(ちなみに冒頭の報道記事ですが、Kindle版では本文外と判定されてしまったのか、この次のページからスタートする仕様になっていました。たまたま読み始める前にページを戻ってしまったので発見できましたが、普通に読んでいたら見落とすところでした!Kindle版で読む人は見落とさないように要注意です!)

メインとなる関係者へのインタビュー、幕間に挟まる謎の女の語り、冒頭にそっと添えられた報道記事
3つの独立した要素は、最終的にある1点で交錯するので、そうい意味では”ミステリー”的な要素も持った物語です。
ただ、物語の構成として見事に1点に収束するものの、謎解きミステリーのようにパズルが解けたようなスッキリさは本作にはまったくありません。
というのも、本作は各要素がそれぞれめちゃくちゃ後味が悪いんです。

メインとなるインタビューは、そもそも一家四人惨殺という強烈に”負”な事件の関係者へのインタビュー。
それぞれ被害者に対する印象を語るんですが、これがもう、ものすごく嫌な感じ。
複数人のインタビューで事件を多面的に描くミステリーと言えば、宮部みゆきの『理由』とか恩田陸の『Q&A』とか、ちょっと毛色は違うけど湊かなえの『告白』とか、複数人ではないけど東野圭吾の『悪意』なんかがありますが、基本的に謎が解けてみれば事件解決のヒントなり伏線なりが、全員のインタビューに含まれているものです。
でも本作のインタビューは、もちろんヒントや伏線を語る人もいるんですが、事件解決や犯人特定のためには必要のないインタビューも含まれているんです。
では何のためにそのインタビューがあるかと言えば、それはもう被害者の人柄を描き出すため
被害者一家は一見すれば”理想の一家”といえる家族で、さわやかイケメンで高給取りの夫と、清楚でお嬢様な奥さんと、優秀な二人の子供たち。
なんですが、それぞれのインタビューを読むほどに、この家族、というかこの夫婦をどんどん嫌いになっていくような構成になっているんです。

インタビュイーのそれぞれは、決してこの夫婦のそれぞれのことを悪くは言わないんですけど、明らかに嫉妬心やコンプレックスを持っていて、全員が全員はっきりと嫌いではないものの、なにかしらの不満や不快感を持っていたことがわかります。
そういう人たちがネチッこく「私はいいと思うんだけど、、、」という前置きのもと、人をネガティブにネガティブに形容し続けるんです。
読んでいる方としては変化球の”悪意”をひたすら受け続ける感じで、なかなかゲンナリしてきます。

さらに、幕間の謎の女の独白、これは完全に直球で。
ネグレクトに始まり、暴力→性的虐待を受けてきた女性が、唯一の味方であった兄へと語りかけるんですが、達観したかのように受けてきた虐待を楽しそうに話す女の狂気性にどっぷりとした疲労感が…。

さらに冒頭の報道記事ですが、これは児童虐待の末に子どもを衰弱死させてしまったある女性の逮捕記事。
3歳なのに1歳児の平均体重しかなかった遺体など、想像しただけで凹むエピソードです。

こんな三つの話が物語の構成として見事に美しく収束したところで、まったくスッキリなんでできやしませんぜ!!
というわけで、物語は上質で、構成も見事。文章も読みやすい作品なんですが、とにかく後味が悪い!
様々な人が放つ悪意にあてられて、「ああ、人間って醜い生き物だなぁ…。」と改めて思いたくもない印象をまじまじと突きつけられてしまいます。
ここまで精神に食い込んでくる作品ということは間違いなく傑作なんですが、気軽にオススメできるものでもなくて、あぁ、なかなか大変なものを読んでしまったなーという感じなのでした。

そして読み終えてのタイトルの意味。
『愚行録』。
最後に誰かを殺したのは敵意や悪意ではなくある種の”愚かさ”で。
では、本当に”愚か”だったのは誰なのか?
世の中に殺されても仕方ない人間なんていないし、人を殺すのが絶対に悪なんてこともなく。
それでは、本質を突き詰めたとき、この作品では誰が誰を殺したのだろう…?
そんなことも突きつけてくるような残酷なタイトルなのでした。

ちなみに、この作品の楽しみ方として「満島ひかりは誰を演じているのか?」という観点で読んでいくのもなかなか楽しいものでした。
この物語には惨殺された夫婦を巡る無数の男女が登場します。
インタビュイーとして直接感情を吐露する人間、惨殺された妻、虐待されて育った謎の女、子どもを衰弱死させた女。
物語の中枢にかかわる女性以外にも、エピソードの中で語られる人物が惨殺事件のキーマンでもあったりして…。

映画『愚行録』のポスターのあの満島ひかりの表情。
あの顔は一体誰を演じたものなのか?
最終的には「なるほど…そうでしたか…」という結末が、怒涛の連打でやってくるので、是非心のどこかで「誰が満島ひかりだ?」と思いながら読んでみる、という読み方もおすすめです!

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