脳と心を揺さぶる傑作ミステリー! 映画『マーシュランド』ネタバレ感想

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いやー、最高に面白かった!
スパニッシュ・ミステリー映画の最高傑作との呼び声もたかい本作『マーシュランド』。
合作とかを除くと、僕は純粋なスペイン映画自体あんまり観たことがないんですが、「エンド・オブ・ザ・ワールド」とか「バスルーム裸の2日間」とか変な映画のイメージが強いスペイン映画の印象を大きく変える傑作でした!

少女二人の誘拐事件をフックにさまざまな事件が複雑に絡み合っていくミステリー展開と、鑑賞後に大きな”謎”を残して去っていく後味が素晴らしい映画で。
相変わらずスペイン映画やスペインを舞台にした映画はスペインの歴史的背景、特に「スペイン内戦」と「フランコ政権崩壊」に関する理解がないと、登場人物への共感が難しかったりもするんですが、そういうのあんまりわかっていない僕でも、純粋にミステリーものとして楽しめる作品だったと思います。

作品概要

2014/スペイン 上映時間:105分
原題:La isla minima
配給:クロックワークス
監督:アルベルト・ロドリゲス
出演:ラウール・アレバロ、ハビエル・グティエレス、アントニオ・デ・ラ・トーレ

<あらすじ>
1980年、フランコによる独裁政治の爪あとが残るスペインのアンダルシア地方。
湿地帯の小さな町で、祭りの開催中に2人の少女が行方不明になり、強姦・拷問された惨殺体となって発見された。
捜査のために首都マドリードから派遣されてきた若手刑事ペドロとベテラン刑事フアンは、これまでにも同じような少女失踪事件が起きていたことを突き止める。
さらに捜査を進めると、貧困や差別、汚職、小児性愛、麻薬密売など町に潜んでいた様々な闇が浮かび上がってくる。
やがて、またもや1人の少女が姿を消し……。

感想

92 100点満点 scored by ultimate-ezマーシュランド

物語の舞台はタイトルにもある「marshland(湿地帯)」のとある街。
映画のさまざまな場面で、この街(湿地帯)を見下ろす空撮の映像が使われていますが、この映像がまた何とも印象的。
やたらと有機的で曲線的な風景が形成されていて、きれいなんだけどどこか奇妙な、見ていて何か不安を感じるような。
そんな映像に仕上がっています。

そんな街で、ある姉妹の誘拐事件を捜査する二人の警察官を主人公に物語は進みます。
一人は若手の警察官ペドロ。身重の妻をマドリードに残し、地方のしがない街に左遷されています。
優秀な警察官ではあるようですが、正義感が強すぎることが災いし、不当な扱いを受けているようです。
もう一人はベテラン警官のフアン。
酒が入ると陽気にバーで隣り合った客を口説いたりするおっさんですが、捜査方法はかなり暴力的。
非協力的な市民を平気で殴って脅して聞き込みをするような男です(容疑者だけじゃなく、証人まで殴る!!)。
独裁政権時代から警察官で、過去には少女に発砲したことがあり、警察内では悪い意味で伝説になっている男です。
この二人がチームを組み、少女二人の誘拐事件の捜査が進んでいきます。

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捜査を進めていくうちに少女二人の死体が見つかり、事件はその他複数の事件とつながる連続少女殺人事件へと。
さらに覚せい剤の密売事件と複雑に絡まっていきます。
ちなみに、少女の死体映像はバッチリ描かれるのでちょっとグロいシーンもあり。
死体は指が切断されている、腕を焼かれているなど拷問を受けた痕跡が残っており、そこもしっかりと画面に映りますのでご注意ください。
(合作映画ではありますが『ペインレス』っていう映画も”痛い”シーンが結構あって。スペイン映画って残酷描写が結構エグいといいますか、生々しいという特徴があるのかもしれません。。)

その後、少女たちと親しくしていたキニというイケメンが事件に深く関わっていることが発覚。
そこから少しづつ犯人を追い詰め、新たな少女誘拐真っ最中の犯人と対峙、刺されて重傷を負いながもフランが犯人を殺害し、事件は解決します。
と、ネタバレ感想と言いながらめちゃくちゃザックリ書いてしまいましたが、実はこの映画はここからがすごい映画!
ラスト15分くらいに怒涛の展開が詰め込まれているんです。

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フアンの計らいにより事件解決の手柄を譲り受けたペドロは、出世する形で左遷元のマドリードへの復帰が決定。
ペドロは相変わらずバーで女客に絡みご機嫌です。
そんなフアンを見ながらカウンターで飲んでいるペドロの元に、事件解決の協力者だった記者がやってきて、ある写真を手渡します。
写真は若き日のフアンの姿。
フアンは独裁政権下で、デモに参加者した100人以上の女性を拷問・殺害した有名な拷問官だったことが発覚します。
また、事件の発端となった姉妹の生前の写真の中に写り込んでいた顔が見えない男の腕にフアンと同じ時計が。。。

街の中での捜査で、ペドロが深く踏み込むのを拒む街の権力者。
フアンに告げられた「死体があなたを待っているわ」という言葉。
非協力的な住人たちと、短絡的な”解決”を導いた霊媒師。
連続少女殺人事件を進める中で様々に散りばめられていた伏線が、一つの仮説へ繋がります。

ここからは完全に僕の解釈で、もちろん違う見方もできると思うんですが、この映画の真犯人をあえて挙げるなら、“marshland”。つまり、この街自体なのではないかと思います。
おそらく、少女の誘拐殺人の本当の主犯格は街の権力者である男。
それはフアンを含む街の要人たちは周知のことで、なんならフアン自身も少女を弄んだことがあるのかもしれません。
また、映画には全く登場しないフランコ政権時代の要人たちをゲスト的にもてなすこともあったのでしょう。
いわばこの街の“産業”ですね。
同様に麻薬もまたこの街の産業として根付いていたんだと思います。
反抗した少女たちの口封じの役割もフアンの仕事。
指を切断する、腕を焼くといったプロフェッショナルの拷問テクをふるっていることを考えると、姉妹は麻薬を横領するといったようなもっとヤバいことに足を突っ込んでいたのかもしれません。
フアンが犯人を逮捕ではなくめった刺しにして殺害したのも、もちろん部外者であり正義感の強いペドロに真実が伝わらないための口封じ。
“仲間”にできそうにないペドロには、出世という形で街から出て行ってもらったのではないでしょうか。

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ズブズブと底なし沼のように足を踏み入れたものを飲み込んでいくmarshland。
お互い決して気の合わない二人ではなかったペドロとフアンですが、泥の底に沈んだフアンと、潔癖なペドロがこの湿地帯で共存していくのは難しいでしょう。
そんな二人を象徴するように、平行線の2本の道路の空撮でこの映画は終わります。

と、ネタバレ感想を書いてみましたが、後半部分はほぼ僕の妄想。
この解釈には不要な伏線もいろいろあるので“これが、この映画に隠されたたった一つの真実”なんて言うつもりもありません。
いやむしろ、「お前の解釈は間違っている!これが真実だ!」という意見を聞きたいからこそ、妄想を断定的に書き綴っている気さえしています。
上映時間は105分とやや短めの本作ですが、引きずる余韻の長さはその数倍。
モヤモヤとした終わり方ながらも不条理な部分がまったくないので、論理的に”真実”に迫ることができる気がして妄想がとまりません。
「あれはこういうことか?」と様々な仮説を元に悶々と過ごすことになりました。
そして、こういう脳に負荷をあたえてくれるような感覚こそがミステリーの醍醐味。
軽い気持ちで見れて楽しんで盛り上がれる映画ももちろん大好きですが、こうやって「ああでもない、こうでもない」と悩ませてくれる映画も大好き!
というわけで上質なミステリーを楽しめる「マーシュランド」、最高でした!