“すべてがD(ダニエル)になる” 映画『パラドクス』ネタバレ感想

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ミステリー系の映画のキャッチコピーで「あなたは必ず二度見たくなる」的な映画って多いんですが、実際そういう映画でもう一度観直したくなる作品ってあんまりないものです。
小説であれば2度目はパラパラ読んで伏線を楽しむこともできますが、映画って結局1回目と同じ時間をかけてみないといけないので、”二度め”のハードルはなかなか高め。
実際、単純に完成度が高いとか、とにかく作品が大好きっていう映画は何度か観直すことがありますが、ミステリーの伏線を確認する目的で映画を二度見することはあんまりありません。

しかし、本作はそういうわけにはいかなかった!!
前半部分が単調すぎてあんまりちゃんと見てなかったせいもあるんですが、前半のすべてが伏線だったことがわかる後半の超展開に完全にヤられてしまい、速攻で2度目の鑑賞をスタートさせてしまいました。
ちょっと不条理な要素が多いので賛否はわかれそうな映画ですが、僕は大好きです!

まあ、不条理な映画といえば当サイトでのワースト2の評価をしている映画『ラバー』があるように、観る人によっては賛否の”否”が圧倒して腹が立つ映画になる可能性もあるのでお気をつけください。
ちょっと”グロ”と言いますか、見ていて気持ち良いとは言い難いシーンもありますしね…。

<参考:映画の感想一覧―得点順― | ultimate-ez.com

「パラドクス』の作品概要

※この予告編すらネタバレ注意!観ようと思った人は予告編も再生せず、そしてここから下の文章も読まずに観て!!

2014/メキシコ 上映時間:101分
原題:El Incidente
配給:AMGエンタテインメント
監督:イサーク・エスバン
出演:ウンベルト・ブスト、エルナン・メンドーサ

<あらすじ>
刑事に追われる犯罪者の兄弟が、とあるビルの非常階段に逃げ込んだ。刑事もその階段に足を踏み入れるが、1階の階段を下りると何故か最上階の9階が現われ、何度下りても9階にたどり着いてしまう。そんな不可解な状況の中、兄が刑事に足を撃たれ、瀕死の状態に陥る。一方、車で荒涼とした大地を横断していた家族4人は、一本道なのに何度も同じ場所を走っていることに気づく。やがて、娘が持病である喘息の発作を起こし……。

感想

88 100点満点 scored by ultimate-ezパラドクス

というわけで、個人的にはすごく楽しめた映画だったんですが、前半部分は本当に単調です。

プロローグはエスカレータのアップから。
そこに生きているのか死んでいるのかもはっきりしないウェディングドレス姿のババアが流れてきます。
コントラストがかなり高めの 映像なので顔に刻まれたシワがやたらと強調され、一目見た瞬間に「これから一筋縄ではいかない映画が始まるよ」という印象を受けるものすごい”つかみ”をもったプロローグ。
この時点ではまったく意味がわかりませんが、とにかく”面白い映画”感がビンビンに感じられます。

そうこうしているうちに物語の本編がスタート。
冒頭、犯罪を犯した兄弟が警察に追われ非常階段に逃げ込んだところ、外で何かの爆発音が。
扉やエレベータが壊れ非常階段に3人で閉じ込められてしまいます。
さらに、逃げ出そうと非常階段を下りていくと、10階・9階…と下りていき、1階の階段をさらに降りると、そこにあるのは10階。
ちょうど10階分で非常階段の一番上と一番下の階がつながり、無限ループ階段になっているんです。
階段にあるのは水とサンドイッチを売る一台の自動販売機のみ。
しかも警察が持っていた拳銃が警察の意図に反するかたちで暴発し、犯罪者の兄に大怪我を負わせてしまいます。
やがて傷がたたり兄は命を落とします。
意図に反して殺人を犯してしまった警察と、警察に兄を殺されてしまった弟の関係はうまくいくわけもない最悪の人間関係。
時間が経つと自動販売機の中身はなぜか自動的に補充され、食料や水に困ることはありませんが、何をどうやってもこの”世界”から抜け出すことはできません。
この段階では「ふーん、この映画は第1作目の『ソウ』や『キューブ』のような”ソリッドシチュエーション”映画か」と思っていました。

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と、ここで画面が暗転。
とある4人家族が旅行に出かけようとしているシーンに場面が変わります。
家族といってもどうやら男は父親ではなく、10歳くらいの兄と5歳くらいの妹を持つお母さんの彼氏っぽい感じ。
旅行先は離婚した旦那さんのところで、お兄ちゃんはお父さんに会えるのを喜んでいるようですが、母親はなかなか微妙な雰囲気です。
なんやかんやギクシャクしながらも旅に出かけますが、1時間以上車を走らせたところでまたしても遠くで何かの爆発音が。。
そんな時、妹ちゃんを持病である喘息の発作が襲います。
車を止めて吸引式の薬を飲ませようとしますが、男の手が滑り薬を地面に落としてしまい使用不能に。
しかもお父さんに会えることでテンション上がった兄は、予備の薬も家に置いてきてしまったというこれまた最悪の状況。
薬を取るために引き返そうとしますが…もちろん、長く伸びる一直線の道路が“無限ループ” 化してしまっています。
一本道なのにどこまで行ってもどこにもたどり着かない無限ループの道。
道中にガソリンスタンドがあるので今回も食料や水に困ることはありませんが、抜け出せないまま。
喘息の薬を与えることができず、妹は命を落としてしまいます。

と、この家族編の途中で僕の気持ち的にはだいぶ飽き始めてきました。
これ、”無限ループ”する世界を描いたオムニバス形式の映画なのか?しかも個々のシチュエーションはきっちりと解決しないパターンのやつ!!2ケース目にしてはやくも飽きてきたわー」と、半分眠くなりながら鑑賞していました。

ちなみに、この映画のジャケットは、この”家族編”でパニックを起こしている時のお母さんの姿。
ジャケットだけ見ると”絶叫系ホラー”って感じですが、この映画、ここまで超静かです。
そしてこの後も超静かです。
なんでこの映画のジャケットにここを選んだんだろう。。。

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と、ここでまた画面が暗転。
「はいはい、3ケース目ね。次は何が無限ループするのかなー。眠みー」と思っていた僕の頭をフルスイングでぶん殴る展開!
見事な 起承「転」を決める3場面目。
舞台は1場面目と同じ非常階段。
階段にはおびただしい数のペットボトルやサンドイッチのゴミが積まれ、壁には延々と続く落書き。
ゴミの中で横たわるジジイ。
なんとこのジジイは、1場面目のあの警察!
なんと、無限ループに閉じ込められたまま35年もの月日が流れていたんです!!
ひたすら階段の上り下りを続けマッチョな青年になっている弟くんに対し、手足ヒョロヒョロで頭もぼんやり「うーうー」唸るだけのジジイになってしまった警察。
ものすごく残酷な肉体の対比がイヤーな感じで描かれます。

非常階段の中には、自動販売機と同様に”兄の荷物”も無限に供給されており、同じ本や同じバックがも、ゴミと同様に大量に積まれています。
ゴミなので汚いはずなのに同一ものが並ぶせいか整頓されたようにも見える不思議なビジュアルの世界観の中、壁には白骨化した兄の死体が貼り付けられています。
汚いのかおしゃれなのかなんとも言えない、どこか神聖さも漂うこの35年後の雰囲気がなかなか魅力的でした。

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そしてまたも画面が暗転し、こんどは”家族”の方へ。
こちらも35年の月日が経過。
20年ほど前から兄は一人で山籠り。
遺された母親は心を壊し、感情のない生きているのか死んでいるのかもわからない廃人状態に。
そんな母親を献身的に世話しているおっさんですが、なぜか唐突にその母親とSEX。
彼氏彼女なんで本人たちからしたら違和感ないのかもしれませんが、見事なまでのジジイとババアの性行為。
現場がモロに写っているわけではないんですが、なかなかにヘビーな絵面でした。。

まあ、それは置いといて。ゆっくりと死に続けているような状態の母親と、何に向かって生きているのかわからない閉塞感が満ちた二人。
やがて母も死に、母の遺体を妹が埋められていると思しき場所のとなりに埋める中で、立派な青年となった兄とこちらもまた気持ち悪いジジイになったおっさんの対比が残酷です。
と、ここで「あれ?」と思うことが。立派な青年になった兄。
髪もヒゲももじゃもじゃなんですが、その顔は間違いなく”非常階段編”で警察官だった男。
と、ここで二つの場面がシンク。
死にかけている螺旋階段のジジイと、”家族編”のおっさん(ジジイ)が同時にある”記憶”を思い出します。

「私はダニエルだ!」

え?ダニエル?
ちなみに、”家族編”における兄の名前はダニエルなんですよ!

さあ、ここからが「転」以上に超展開な起承転「結」のはじまりです!

“非常階段編”と”家族編”をめまぐるしく行ったり来たりしながらジジイが語る過去。
それは、自分がこの”無限ループ”を経験するのは2回目であるということ。
35年間のループを抜けた直後にループの記憶を失い、次のループに入ってしまったというのです。
この連続する無限ループが何をきっかけにはじまったのかは映画では判明しませんが、ループしていく男の名前は「ダニエル」。
若いダニエルは何かをきっかけに”ループ”に取り込まれ、そこに老いた男と二人で35年間閉じ込められることになります。
35年経つと老いた男が死亡しループを抜けるための”出口”が現れるんですが、その”出口”は次の”ループ”への”入口”。
前回のループの記憶も、自分がダニエルであることも忘れ、違う人物として2度目のループへ閉じ込められます。
新しい”ダニエル”とふたりで。
こうして”ダニエル”を引き継ぎながら35年サイクルのループを延々と繰り返していたというのがこの世界の正体だったのです。

そして、このループは何のために起こっているのかというと、実はこの”ループ”世界は現実世界とパラレルに存在していて。
新しいダニエル(若いダニエル)の人生はループに入る瞬間に、“ループに入らなかった世界線”“無限ループする世界線”に分かれるんです。
そして”無限ループ”の苦しみは、”ループしなかった世界線”の幸せの”対価”となっているようです。
本来の自分が幸せに暮らすために、違う自分が”無限ループ”で苦しむ必要があると。
何年か前にネットで話題になった「アンパンマンの怖い話」ってのがありましたが、あれに通じる怖さがありますね。。

<参考:ひろぶろ : 【劇画!!】アンパンマンの怖い謎。換えた顔はどうなるの・・・?(漫画)

そして、このループを作るためには”生贄”が必要。
非常階段で警官の銃が暴発して兄を殺したのも、家族編で妹の喘息の薬を落としてしまうのも、”生贄”を作るための必然だったというわけです。
そしておそらく、”生贄”を生むのと同時に世界から”ダニエル”以外を排除するのもまた目的だったのでしょう。

いやー、それにしてもまさかの超展開。
これがわかってくると退屈だった前半にもいろいろと理由があったことがわかって、冒頭に書いた通り”二度見たくなる”ってもんです。

さらに言うと、前半のあの退屈さのおかげで100分ほどしかないはずのこの映画の印象って「長い」なんですよ。
普通なら面白い映画は体感時間が短く感じられるので、長く感じるってのはつまらないってことになるんですが、この映画においては”35年”という時間の長さに意味があって。その”不毛な長さ”を体感できるという意味でも、前半の退屈さに必然性があるのがすごいです。

ちなみに、ループの代償で現実が幸せになってくれればまだ救いがあるんですが、老いたダニエルでは現実世界へ送れるエネルギーも乏しいせいか、現実世界のダニエルたちもあんまり幸せではなさそう。。。
これがまた超後味悪いんですよね。。。

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と、真相が判明したところで物語はエンディングへ。
家族編のダニエルの前にはループを脱出するためのパトカーが。非常階段のダニエルの前にはエレベータが到着します。
老いたダニエルから”出口”が次のループへの”入口”であることは伝えられたものの、他にループから逃げ出す方法がないため結局は”出口”を使わずにはいられないダニエルたち。
パトカーに乗ったダニエルは「警官」として、非常階段編のループへ向かい、エレベータに乗ったダニエルは、ホテルの従業員として新しいループに突入します。

次のループの登場人物は、今回は”老いた男”役になるダニエルと、一組のカップル。
これから結婚式を行うようで女性はウェディングドレスを着ています。
エレベータを降り、廊下を歩いているうちにまたどこかで爆発音が。今度はホテルの廊下が”無限ループ”化し、新たな35年へと突入していきます。
そう、冒頭にエスカレータを流れていたウェディングドレス姿の老婆はこの女性だったんですね。

ただ、最後の最後にちょっと疑問が。
この最後の世界、ダニエルがいない。。。
新郎は”生贄”っぽいし、新婦は35年後ババアだし。
おそらくこの後次のダニエルと出会うんでしょう。そうして無限にダニエルが引き継がれていくんでしょう。

というわけで随分長々と書き綴ってしまいましたが、こういう「考えれば考えるほど怖い」ストーリー、大好きです。
上述したアンパンマンのネタもそうですし、ネットでは「5億年ボタン」なんかも有名。
「本当は怖いどこでもドア」なんてのも同系統のネタです。

<参考:世にも怖い漫画『5億年ボタン』あなたはこの絶望感に耐えれますか? | Dreamer
<参考:どこでもドア – 哲学的な何か、あと科学とか

自分自身が気付いていませんが、実はこれまで生きてきた人生のどこかで”無限ループ”への入口は存在していて、いまこうしてブログを書いている僕はたまたま”ループに入らなかった世界線”を生きていますが、こうしているあいだにも僕が”無限ループ”に捉えられているのかもしれない。
こういう妄想にとらわれると夜も眠れなくなるくらい怖くなってきます。

というわけで、『パラドクス』。
割とありそうな話ではありますが、前半部分の単調さからの起承転結の「転」っぷりと「結」っぷりが素晴らしく、また低予算っぽい中で絵作りも超こだわれていて、”無限ループ”世界の生々しいリアリティーが素敵でした。
ジジイとババアの性行為や排尿シーンなどもあり、かなり観る人を選ぶ映画かなーとは思いますが、ジワーーーっとくる恐怖を味わいたい人にはかなりオススメの映画なのでした。

いやー、それにしても、なんでこのジャケットなんやろう。。。

Commentsこの記事についたコメント

1件のコメント
  • 通りすがり より:

    この映画を見て、他の人はどのような感想を持ったのかネット検索したところ、コチラを見つけました。
    差し出がましいようですが、1点指摘させてください。

    本文中に【”ダニエル”を引き継ぎながら】とありますが、名前を引き継いでいるのではありません。
    長く伸びる一直線の道路編の老人は本来の名前が【ルーベン】、ループ中に使用する名前が【ロベルト】です。
    階段編の若者も名前が違います(覚えてないですが・・)。ホテル編では【カール】という名前です。

    突然のコメント、失礼しました。

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