地上411メートルの”高さ”を体感せよ! 映画『ザ・ウォーク』ネタバレ感想

『ザ・ウォーク』ポスター

ロバート・ゼメキス監督最新作『ザ・ウォーク』を観てきました。

監督の前作『フライト』がちょっと期待外れだったのと、『ザ・ウォーク』と同じ題材のドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』が文句のつけようのない出来の映画で、かつ”リメイク”として観るほど古い映画ではないこともあって観るべきか迷ったんですが、予告編で感じた強烈な“チンサム”映像の魅力を満喫したくて、3Dで観てきました。
感想をひとことで言えば、予想以上の“チンサム”!
映画の出来や美しさで言えば『マン・オン・ワイヤー』を超えるものではなかったですが、純粋に楽しいアトラクション映像として、是非映画館で観た方がいいと思える映画でした。

<参考:“正しい生き方”へ。男の人生が今、胴体着陸。 映画『フライト』ネタバレ感想

映画『ザ・ウォーク』のあらすじ

2015/アメリカ 上映時間:123分 G
原題:The Walk
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督:ロバート・ゼメキス
出演:ジョセフ・ゴードン=レビット、ベン・キングズレー、シャルロット・ルボン

<あらすじ>
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ 一期一会」など数々の名作を送り出してきたロバート・ゼメキス監督が、米ニューヨークのワールドトレードセンターで命がけの綱渡りを敢行した男の物語を3Dで映画化。
1974年8月7日、当時世界一の高さを誇ったワールドトレードセンター。フランス人の大道芸人フィリップ・プティは、地上から高さ411メートル、110階の最上階で、そびえたつツインタワー間をワイヤーロープ1本でつなぎ、命綱なしの空中かっ歩に挑む。

感想

70 100点満点 scored by ultimate-ezザ・ウォーク

というわけで、アトラクション映像として非常に楽しめた本作。
近い映画で言えば『ゼロ・グラビティ』。
純粋に物語を楽しむというよりは、体感する映画・体験する映画という感じです。
本作で体感・体験するのはもちろんワールドトレードセンター間の「綱渡り」。
110mという高所を命綱無しで渡りきるというクレイジーな行為を、まさに自分の視点で体験することができます。

Walk main large

「3D映画は、実は物を飛び出させるよりも奥行きを表現する方が効果的」
3D映画黎明期の最高傑作ともいえる『アバター』が提示したのは3D映画の大きな特徴ですが、本作もやっぱりこの”奥行き表現”が凄い。
そして本作で表現される奥行きは、もちろん縦方向です。

映画の中盤で、フィリップが初めてワールドトレードセンターを見て、真下から見上げるシーンがあるんですが、まず、そこでのタワーの高さの表現に目がくらみます。
さらに紆余曲折を経て屋上に立ったフィリップが見下ろす景色。
下から上、上から下とダイナミックにカメラが移動することでさらに強調される”高さ”の表現がほんとにゾクゾクしました。
男性の方にはご理解いただけると思いますが、本当にもうキューーッってなります。2時間の上映時間の間、何度も!
僕は今職場が40階で、40階の高さからの眺めは見慣れてるんですが、ちゃんとそれより高いと知覚できるってすごい!

さらに、瞬発的なアクセントとして”飛び出す”方向の3Dも効果的に使われているのが本作。
物語の序盤で綱渡りを練習するシーンがあるんですが、物語的にも絵的にも単調なシーンが続く中でふいに、手前にドーンと飛び出す3Dで脅かされるシーンがあります。
まあ、僕が先端恐怖症なせいもあるんですが、ちょっとボーっとした気持ちで鑑賞しているタイミングだったので、予想外に激しくびっくりさせられまして。
それこそ初めて3D映像を観たときと同じくらいの新鮮な気持ちでビビってしまいました。

やっぱり、こういう特殊表現を絶妙なタイミングと方法で使いこなす表現巧者っぷりはさすがゼメキス監督作品です。

Walk 03 large

というわけで、アトラクションとしては最高だったんですが、物語としては『マン・オン・ワイヤー』を観たことがある人にとっては特筆すべき点が無いというのが正直な気持ち。
もちろんリメイクではないので『マン・オン・ワイヤー』を意識しすぎるのも違うのかもしれないですが、綱渡りシーンが映像化されているという点を除けば、あんまり大きな違いが無いんですよ。

その最大の原因が、フィリップスしゃべり過ぎ問題。
物語のオープニングで主人公のフィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン=レビット)が登場するんですが、なぜか自由の女神の右手に持った松明の上に立っているフィリップがストーリーテラーとしてすべての物語をペラペラと語るんです。
もちろん映像で説明する部分もありますが、「この時何が起こった」「この時こう思った」という情報は、基本的にほとんどフィリップの語り。
これが、インタビュー形式で物語を進行していた『マン・オン・ワイヤー』とほとんど同じ構成で。
もちろん、『マン・オン・ワイヤー』で語られなかったエピソードもあるにはあるんですが、どうしたって大筋のストーリーは一緒なわけで。
同じ話を同じような表現で見せてしまっているので、新鮮さはあまり感じられない作品でした。

さらに言えば、「肝心の綱渡りシーンの映像が無い」という最大の問題点を補うべく、『マン・オン・ワイヤー』ではどうやってビルの間にワイヤーを張るのかというプロジェクトをかなり丁寧に描いていて。
さらに一度失敗してフランスに帰るという展開がありました。(この辺僕の記憶違いでなければ。。。)
本作では、その困難さをある程度は描いているんですが、トラブルが起きたり、仲間割れがあったりしたけれど、なんとなくいろいろ上手く行って綱が張れてしまうんです。
クライマックスを映像化できているからこそ、それ以外のシーンの重要度が下がるというのは仕方ないんでしょうけど、“チームで行った困難なプロジェクトだった”という印象がだいぶ弱まってしまったような気がします。

その意味ではもう1点。親友であり最初からのメンバーであるジャン・ルイが、『マン・オン・ワイヤー』のインタビューの中で「友情は無くしてしまったけど、俺たちはやり遂げたんだ」みたいなことを言って涙を流すシーンがありました。(この辺も僕の記憶違いでなければ。。。)
『マン・オン・ワイヤー』を観た後、この言葉の意味をすごく考えさせられたんだけど、本作ではここがあんまり描かれていないのもちょっと不満でした。
もともと仲間になったのも「親友のフィリップを死なせたくない」という想いがあったんですが、本作ではそこもあんまり深く描かれていませんでした。。。
アニーとの別れはさらっと描かれていましたが、男女だとまたちょっとニュアンス変わってきますしね。。。

Thewalk sub3 large

というわけで、『マン・オン・ワイヤー』と比べてしまうと、ちょっと不満も出てきてしまう本作。
すごくざっくり言うと、良い映画は『マン・オン・ワイヤー』、楽しい映画は『ザ・ウォーク』という感じで、楽しかったんだけど楽しさに振り切り過ぎたのかなーという感じです。い
やもちろん、楽しさに振り切ってるのはそれはそれで良いことで、綱渡りシーンはもう一回見たいし、2016年に本当にVR環境が普及するんなら、ヘッドマウントディスプレイで絶対に観たいコンテンツなのは間違いないです。
ただ、やっぱり『マン・オン・ワイヤー』が美しい映画過ぎたんですよね。。。

と、そんな『ザ・ウォーク』を楽しんだ週末、ネットではこんなニュースが話題になってました。


一応僕も大学でデザインやアートを学ぶ環境にいたので、この自称アーティストのひとたちの気持ちが100%理解できないかと言えばそんなこともなくて。
根本的に“悪い”んじゃなくて、”甘い”んじゃないかなーというスタンスなんですが、やろうとしたことはほんとにクソだなーと思ってます。
思ってるんですが、ザ・ウォークで描かれたフィリップスがやったことと何が違うんだろうって。
そこがうまく説明できないんですよね。すごく感覚的で。

どちらもやってることは明確に犯罪。
時代の違いというのもありますが、現代においても例えばバンクシーの表現には犯罪行為が含まれます。
個人的な感覚としては「ダサいのはダメ、ダサくないのはOK」みたいな線引きがあるんですが、こんなの何の説明にもなってないし。

フィリップスは自分の活動を「クーデター」と呼んでいたんですが、しっかりと説明のつくポリシーを持っていたかと言えば、「なぜあんなことをしたのか?」という問いかけにうまく返答できなかったり。
感覚的に芯を持っているとは思えるものの、それをちゃんと他者に表現できているかと言えばそうではない。
上記の自称アーティストたちと何が違うのかと言えば、正直そんなに変わらないのかもしれません。

アート好きとして、この違いは自分の言葉でちゃんと説明できるようになっとかないとなーと思います。
「アートだから」という言葉がある人には免罪符として映るように、「アートだったら何してもいいのか!」という言葉が万能の武器になっている今日この頃のアート界隈。
バンクシーはやることなすことかっこよく見えるし、チンポムの『ピカッ』は血が沸くほどに嫌い。
ザ・ウォークの綱渡りは美しいが、アート展にデリヘルを呼ぶのはクソ。

そんな自分の中にモヤッとある線引きを、ちゃんと説明したいなーなんてことを考えさせられる週末でした。