ただ自分の愛に殉じるシリアルキラーの美学 映画『ビューティフル・ダイ』ネタバレ感想

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昨年公開され、ホラー好きのハートを鷲掴みにした映画『サプライズ』
『サプライズ』というタイトルはちょっと盛り過ぎだとは思いますがちなみに原題は『You’re Next(次はお前だ!)』で、それだったら特に不満はなかったのに。。)、僕もあの映画がかなり大好きです。
<参照:大好きだけどノーサプライズ! 映画『サプライズ』ネタバレ感想

そんな傑作ホラーを手掛けたアダム・ウィンガード監督の初期作品がレンタル開始していたので借りてみました。
前情報を何も入れず、あらすじすら読まず観てみたんですが、『サプライズ』の印象で構えていると、それこそサプライズ!な展開!
人は死ぬし、残酷描写もあるし、作品のテイストも好き嫌いが分かれそうではあるけれど、これは良い映画!!

作品概要

2010/アメリカ 上映時間:87分 R15+
原題:A Horrible Way to Die
配給:アットエンタテインメント
監督:アダム・ウィンガード
出演:AJ・ボーウェン、エイミー・サイメッツ、ジョー・スワンバーグ

<あらすじ>
恋人が殺人鬼であることを知ったサラは自ら警察に通報し、愛を終わらせたが、そのことがきっかけでアルコール依存症になってしまう。一方、サラの通報により投獄されたギャレットは、看守を殺して脱獄。猟奇的で残虐な本能を抑えることができず、殺人を繰り返しながら、かつて愛した女サラのもとへ向かう。

感想

73 100点満点 scored by ultimate-ezビューティフル・ダイ

※“サプライズ”が売りの映画ではないけれど、終盤の展開はネタバレなしで観た方が楽しい映画なのは間違いありません。ここから先はネタバレありなのでご注意ください!

『サプライズ』とはかなり趣がちがうものの、かなり見応えのある作品だった本作『ビューティフル・ダイ』。
いい意味での“B級感”があふれる楽しい映画だった『サプライズ』に比べ、もっと叙情的で繊細な本作の完成度に、アダム・ウィンガードという監督の才能の“幅”を感じます。

手持ちカメラのような“揺れ”や、焦点の合わないボケた映像の多用と、過去と現在を行き来しつつ語られるストーリーの組み合わせが強い“不安定さ”を生んでいて。
本作の主人公サラの心の揺れ動きとシンクロするように、観ている側をも不安に駆らせられます。
この辺り、まさに見る側の感情が監督の手の中で転がされているわけなんですが、それが巧みな作品であれば、転がされるのも気持ちがいいものです。

ただ、そうやって、サラの心情にシンクロするように作られている作品なんですが、それが完全に“主観映像”にはなっていないのが本作の特徴的なところ。
“主観”に寄せきった映画といえば『トゥルー・グリット』なんていう傑作がありましたが、ああいう作品とは違い、本作はサラの心の動きに寄り添いながらもあくまで客観的
本作のもう一人の主人公と言えるのが、サラの元彼にして連続殺人鬼のギャレットなんですが、このギャレットをとらえた映像だけは、サラの心情と微妙な“ズレ”があるんですよ。

ギャレットというキャラクターは、本作の冒頭で移動中の護送車から脱走した極悪な犯罪者。
その猟奇性ゆえにファンサイトまで作られるようなカリスマ殺人鬼です。考えにくいことですが、犯罪者のファンっているらしいんです、実際に。日本でも、市橋達也が逮捕された頃に、mixiでファンコミュニティーが出来てちょっと話題になったこともありましたね。。)
ギャレット脱走のニュースを知り、また自分のまわりで猟奇犯罪が起こったことで、サラはギャレットが自分を殺しに戻ってきたという想像におびえてしまいます。
というのも、ギャレットが逮捕されたのはサラの告発がキッカケ。
サラの目を盗んで猟奇殺人を続けていたギャレットですが、ある日その凶行を知ってしまったサラは警察に通報。ギャレットは逮捕、服役することになったわけなんです。

それを恨んだギャレットが脱走し、自分を殺しに来た。そう考えるのは、確かに自然なことに思えます。

しかし、映画ないで描かれるギャレットの姿はとてもそうは見えません。
過去の回想シーンにおいても、脱走後にしても、殺人を犯した後のギャレットの姿はどこか悲しげで、泣いているようにすら見えてしまうほど。

“何か”がある。
確かにそう思わせる佇まいなんですが、最後まで見ると、その“何か”がちゃんと用意されていて。
非常に“丁寧”な映画という印象を持ちます。
しかも、映画自体がギャレットに優しすぎないのもまた素晴らしいんですよ!!

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えー、“何か”とボカしたままだと話がモヤモヤしてしまうので、“オチ”のネタバレを書いてしまいますと、、、
ギャレットの殺人に気が付き告発したサラは、その時のショックからアルコール依存症になってしまい、今はその公正サークルに通い中。
そこで知り合った男性といい感じになっていたところにギャレットが帰ってきたかも!ってことで怯えまくり、それを支えようとしてくれる男性とさらに親密になってゆきます。
しかし、実はその男の正体は、ギャレット信者のサイコパス!
彼にしたら「神」にも等しいギャレットを刑務所送りにしたサラのことを恨んでおり、仲間3人でサラを拷問⇒殺害すべく近づいたゲス野郎で。
立たなかったのか早くイっちゃったのか、とにかくサラとのチョメチョメがうまくいかずに「ごめん。。」みたいなシーンがありましたが、あれも通常プレイじゃうまくいかない変態だったってことの伏線なのかな?)
しかも彼らは、刑務所内のギャレット宛にサラの殺害予告と犯行場所や時間を知らせる“招待状”を送っていて。

しかし、ギャレットの方はと言えばサラのことを恨んでなどおらず、むしろサラが通報したことをきちんと受け入れていて。
というのも、実はギャレットは殺人を楽しんでなどいなくて、「やめたいけれどやめられない」という自分の異常性癖に心底苦しんでいる人物だったんですよ。

だからこそ、サラを殺そうとしているゲス野郎を止めるべく刑務所を脱走し、招待状の場所までやってきたというのが真相。
「人を殺さずには生きていけない」という重すぎる“業”を背おいながら、それでもサラへの“愛”にこそ突き動かされる哀しい男、それがギャレットという人物の正体だったんです。

事実、約束の場所に現れたギャレットは文字通り“命懸け”でサラを守るんですが、生き延びたサラはギャレットの愛に応えるどころか、ほとんど目もくれないで逃げ出してしまう。

このエンディングが良いんですよ!!

ギャレットはサラを本当に大切に想っていて。
だからこそ自分の”業”に苦しんでいて。
それを理解してほしいとも思わないし、愛し返してほしいとも思わない。
事実、サラ目線から物語を捉えれば、ギャレットの愛に応えるなんて絶対考えられないですからね。
それをわかった上で、ただ、自分の愛に殉じる姿が本当に美しい!!

そして、その死にざまこそが、映画内で彼が語った自分の望む死に方であり本作の原題でもある「A Horrible Way to Die(ひどい死に方)」となるわけですが、邦題は『ビューティフル・ダイ』!!
いや、そうなんだけど!この死に方は気高くて美しいんだけど!それを『ビューティフル』って言っちゃうんじゃなくて「Horrible」って言うところがかっこいいんじゃないか!
という、『サプライズ』に続く“邦題、どうかしてるぜ問題”につながってしまうのが残念なところなのでした。

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というわけで、『サプライズ』の雰囲気を期待していると、何もかもが全然違って驚くものの、丁寧で美しい描写が沁みる良作だった本作。
まあ、『サプライズ』と共通点が無いといいつつも、同じ役者が出演していたりするので、そういう意味での既視感はありますが。。)

『サプライズ』以上に好き嫌いが分かれる作品だとは思うし、上述した手ブレ&ピンボケの演出がさすがにちょっときつすぎて酔ってしまう点が要注意だったりもするし、ギャレットに甘すぎない展開とはいえ、猟奇殺人の犠牲者たちが浮かばれない感じがなんかモヤモヤしたりまじめなテイストでとらえればとらえるほど、こういうモヤモヤが残ってしまうんですよね。。)
決して、「完璧!」「最高!」「おすすめ!」とは言い難い作品なのも事実で。

ただ、猟奇殺人を背景にした叙情あふれるラブストーリーという、“純文学性”すら感じさせるタッチが個人的には超好みで。
「おすすめ」とは言わないけど、「僕は大好きだ!」ってことだけは言っておきたい!

考えてみたら僕はそもそも「ミステリー小説」という人の死を扱った作品が大好きで。
人殺しは絶対ダメだけど、そこにある芸術性にはグッときちゃうわけで。
それもまた“業”だよな〜と思いつつも、そういう作品への“愛”は止まらないので、まあ、現実と虚構の区別はしっかりつけつつ楽しみたいと思うのでした。

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