“生涯ベスト”なミステリーに出会いました。 小説『生ける屍の死』(山口雅也) ネタバレ感想

生ける屍の死

2014年は、“今年の課題図書”として「このミステリーがすごい!ベスト・オブ・ベスト」を全部読んでみようと思っていて、国内編第2位の本書『生ける屍の死』にも手を出してみました。

僕は“ミステリー好き”を自称しておきながら、本書について読んだこともなければ、存在もぼんやりとしか知らなかったんですが、いやー、これはすごい!!!
国内編第“2”位ということで、本作の上位に第1位の『火車』(宮部みゆき)が鎮座しているわけですが、『火車』という物語はミステリーとしての精度もすごいんだけど、それ以上に、“人間ドラマ”としての価値、“社会問題提起モノ”としての価値が優れた作品だったわけで。
これまで僕が読んできた本の中にも、そういう「“人間ドラマ”として好きな作品」が多いわけですが、もっと限りなく純粋に“ミステリー作品”として物語をとらえた場合、僕にとっては本書『生ける屍の死』こそが、“これまで読んだ中で一番おもしろいミステリー”でした。

『生きる屍の死』のネタバレ感想

1989/日本
著者:山口雅也

あらすじ

ニューイングランドの片田舎で死者が相次いで甦った!
この怪現象の中、霊園経営者一族の上に殺人者の魔手が伸びる。死んだ筈の人間が生き還ってくる状況下で展開される殺人劇の必然性とは何なのか? 自らも死者となったことを隠しつつ事件を追うパンク探偵グリンは、果たして肉体が崩壊するまでに真相を手に入れることができるか?

感想

99 100点満点 scored by ultimate-ez生ける屍の死

というわけで、『生ける屍の死』の感想なんですが、、、
“生涯ベストミステリー”と出会ってしまい、今まで味わったことがないくらい強固な「パズルのピースがはまる感覚」を味わってしまって、いまだに興奮が冷めておりません。
いやー、凄かった!

ただ、今となってはこうして最高レベルの「興奮」に身を委ねているものの、読書中ずっとこういう感覚だったかと言えばそうでもなかったりします。
正直、「これがこのミスベスト・オブ・ベストの国内編第2位だよ」という前提が無ければ、途中で読むのをやめていたかもしれない作品だったかもしれません。

というのもこの作品、すげー“長い”んですよ。
650ページというページ数自体ももちろん長いし、最近出版された文庫本なんかに比べると文字サイズが小さかったりするので、全体の文字数がそもそも多いっていうのもあるんですが、それ以上に、登場人物それぞれが語る死生観についての薀蓄がまぁ〜長い。
読み終えた今となっては、その中盤のごちゃごちゃしてやや退屈ですらある展開こそが、クライマックスのカタルシスを生んでいることがわかるんですが、それにしても、「もう一度読み返したい」という衝動を上回るくらいには“長い”という印象が残っています。

作中で

小説はともかく300ページくらいで事件が解決するのがいい。

というセリフがあるんですが、そのセリフが書かれているのが360ページ目。
さらに本書の総ページ数に対して、ようやく半分を超えたくらいなわけで。
さすがにこのセリフを見た時には、ちょっと「クラっ」ときてしまいました。。

ただまあ、言うてもやっぱり、その“長さ”があったからこそのあのクライマックス!
それは間違いありません。

そもそも本作は、ミステリーをやるにはご法度と言ってもいいような「死者が生き返る」という特別な世界が舞台のミステリー。
そうなんです。タイトルの「生きる屍」っていうのは何かのメタファーというわけではなく、ほんとに死んだ人が生き返る世界の話なんです。
一歩間違えば“何でもあり”になってしまう、この「生きる屍」たちの世界。
それを成立させるには、世界観をきっちりと読者の頭に根付かせる必要があるわけで。
そういう意味で、この“助走期間”の長さは、本作のクライマックスを成立させるためには必要な長さだったとも思えます。

まあそれにしても、この「生きる屍」という存在。
これが本当にすごかった!

本作における「生き返り」っていうのは、別に感動的な奇跡でもなければ、恐ろしいゾンビでもなく、生きていたころとなんら変わらず連続した存在として描かれています。
もちろん“生体反応”は止まっていて、放っておけば腐敗もするし、死後硬直や眼球の白濁などの“死後”の状態には変異していくものの、キャラクターとしては生きている人間となんら変わりません。
象徴的なセリフは以下。

すまん、ちょっと、死んでたんでな、全然聞いていなかった。
悪いがもう一度最初から繰り返してくれないか?

こんな具合で、いとも簡単に人は生き返るわけです。
そんな世界なもんで、ミステリーという枠組みにおいて一番の肝となる「殺人」という行為は、はっきり言ってしまえば何の意味も持ちません。

そんな世界において、それでも起きた「殺人」という行為。
それに対し、まさにこの世界においてしかありえない動機と、この世界においてしかありえないトリックを使ってミステリーが紡がれていて。
「犯人」「動機」「トリック」の3つが高次に結びついていることが上質なミステリーの条件だと思うんですが、この作品においては、それらを包括する「世界観」までもがミステリーを構築する一片のピースとなって、カッチリとハマるパズルを形成しているんです!
いやー、すごい。

さらに本書の凄いところは、ある意味で、この「世界観」というピースのはめ込まれ方が“完璧すぎない”というところ。
先ほどまで言ってたことと矛盾していると思われるかもしれませんが、「完璧」なんだけど「完璧すぎ」ではない、というのが本書の凄いところだと思うんですよ。

例えば、本書の解説においても、この「生き返り」という飛び道具級の仕掛けについては大いに語られていて、「“何でもあり”にならないように厳格なルールを設けている」という紹介をされているんですが、僕の印象としては、ちょっと違っていて。
というのも、本書における「生き返り」って実は全然ルール化されていないんです。
例えば、この世界においても、死人の全員が生き返るということはなく、生き返る人とそうでない人がいるんだけど、生き返るために必要な条件や、生き返りの原因というものは作中では語られません。
また、「生きていたころの“生物としての不具合”、つまり「病気」や「けが」による不調は、“生きる屍”になることでむしろ改善する」みたいな、超重要なルールが後出しされたりもするんです。もちろん、それを“推測”できるネタは提示されているんだけど。

そういう意味では、「特殊ルール」なのはやっぱりその通りで、厳密で絶対的に「“フェア”なミステリー」とは言えないのかもしれません。
ただ、だからこそ、あれほどまでに劇的に全てのピースがカッチリとハマっていくクライマックスにおいて、「完璧すぎ」のミステリーに感じてしまう“答え合わせをしている感覚”に陥らずにすむんじゃないかと思うんです。
単に出来事の辻褄合わせをするのではなく、この状況において「確かにこうなる」「確かにそう考える」という“納得”の積み重ねによって物語が収束する、この感覚!
まさに“過不足なく完璧”です。

こういう一つの“設定”が世界観の肝となる作品において、これほどまでに完璧に作品をまとめきった作品ってほかにあるんでしょうか。
いやー、完璧中の完璧ですよ、これ。すごいなー。

というわけで、あまりの完璧っぷりに、「完璧」という言葉を使いすぎて、もはやなんだか何も説明してないような気にすらなってきた今日の感想文ですが、しょうがない、完璧だったんだから!
唯一の欠点は上述したように、クライマックスに至るまでのあまりの「長さ」。
文体が合わない人にとっては、「最後がすごいから、そこまでは我慢して読んで!」というのも酷な長さではありますが、それでも、「黙って最後まで読んでくれ!」とお勧めしたくなる究極の一冊でした。

それにしても、「このミステリーがすごい!ベスト・オブ・ベスト」
傑作の『火車』に続き、“生涯ベストミステリー”と出会えちゃったりして、なんとも信頼できるランキングだなぁ。

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