「文章」が生み出す圧倒的なエモーション! 小説『ラスト・チャイルド』ネタバレ感想

ラスト・チャイルド 上

Kindleで読める「このミステリーがすごい!」歴代ベスト10作品を制覇しよう!ってことで、ちょっと前から通勤時間の読書を再開したんですが、早くもとてつもない作品に出会ってしまいました!

ここ最近の流行に沿うかたちで、本作も「犯人」や「トリック」が主体の純粋なミステリーというわけではなく、どちらかと言えば、その事件の中で変化していく“人間”にスポットを当てた作品。
特に本作は主人公が13歳の少年ということで、少年の成長譚としての側面が強い作品です。

ただ本作の場合は、絶望の底にいた少年が“成長する”というレベルのお話ではなく、その人生を“生きなおす”と言えるくらいの強烈な体験を描いた作品で。
少年が絶望の淵ギリギリのところで耐えている姿は、読み進めるのを一時的にやめたくなってしまうほどの破壊力があります。
ただ、最後に少年のもとへと差し込む光が本当に美しく、非常に胸に響く作品でした。

『ラスト・チャイルド』の作品概要

2010/アメリカ
著者: ジョン・ハート
出版社: 早川書房

あらすじ

少年ジョニーの人生はある事件を境に一変した。
優しい両親と瓜二つのふたごの妹アリッサと平穏に暮らす幸福の日々が、妹の誘拐によって突如失われたのだ。
その後まもなく父が謎の失踪を遂げ、母は薬物に溺れるように……。少年の家族は完全に崩壊した。
だが彼はくじけない。
ただひたすら家族の再生を信じ、親友と共に妹の行方を探し続ける。

感想

98 100点満点 scored by ultimate-ezラスト・チャイルド

というわけで、正直“生涯ベスト級”と言って差支えがないほどグッと来た本作『ラスト・チャイルド』。

ただ、「大絶賛!みんなも絶対よむべき!」とは言いにくい作品でもありまして…。
というのも、『童話物語』っていう僕にとっての生涯ベスト小説があるんですが、これを読んだときに知り合いみんなにオススメしたけど、イマイチ誰にも共感してもらえなかった、という経験があるんですよ。
曰く、「暗すぎて途中で断念した。」「重すぎて読む気がしなくなった。」「主人公の性格がねじ曲がりすぎ!」と、散々なコメントがどしどし押し寄せまして…。
でも、僕はあの作品が超大好きなんですよ!

そして、本作『ラスト・チャイルド』は、その『童話物語』に通じるところのある作品です。
暗いし、重いし、主人公の性格もなかなかひねくれていて。

でも、僕個人の嗜好として、「“真の光(希望)”を手に入れられる者は、“真の闇(絶望)”を知っていなければならない」的な展開が大好きでして。
「すべてを失くしたものだけが、本当に大切なものを手にする資格がある。」そう言い切るような物語に、心からグッと来てしまうんですよ!

そんな本作『ラスト・チャイルド』の主人公ジョニーの物語は、のっけから絶望的。
ジョニーが12歳のある日、双子の妹アリッサが失踪してしまったことをきっかけに、家族はめちゃくちゃになってしまっています。
母親に責められすぎた父親は失踪、娘も夫も失った母親は酒浸り。さらにそこに付け入るクズ野郎が表れて、美人の母親はヤク中性奴隷化していて。。
すべての大人が、アリッサはもう死んでいるだろうと思っている中、たった一人ジョニーだけが妹を探し続けています。

もちろん、すべての大人がジョニーに敵対していることはなく、ジョニーとその家族を更生させようと手を差し伸べる大人もいるんんですが、「アリッサはもう死んでいる」と思っている時点でジョニーにとってはその大人も敵。

「刑事さんがあきらめたからって、ぼくまであきらめなきゃいけないことにはならないよ」
48ページ

刑事は少年の目を長いこと見つめていた。それが怒りから恐れへと変化したのを見て、少年がどれほど希望を必要としているか痛いほどわかった。しかし世界は子どもにとってやさしくなく、ハントもジョニー・メリモンにはさじを投げかけていた。
49ページ

と、差し伸べる手を振りほどきながら、孤独に、危険を冒してでもアリッサを探し続けています。

一見冷静で大人っぽくも見えるジョニーの行動ですが、その端々から、心の奥底で悲鳴をあげ続けているのが痛いほど伝わってくるのが、本当にキツい。。

さらに、序盤で明らかになる『ラスト・チャイルド』というタイトルの意味もまた寂しくて。
これって、原題は「THE LAST CHILD」「THE」がついてまして。
つまりこれって、双子のうちの「残ってしまった方の子ども」という意味の「THE LAST CHILD」なんですよ。
しかも、この言葉を使うのはジョニー自身という。。
「残されてしまった方の子ども」「代わりに死ねばよかった方の子ども」。そういうネガティブな意味を自分自身に突きつけるジョニーの絶望の深さが、ただただ切なかった。

そんなわけで、作品冒頭からヘビーな展開が続くんですが、“誘拐殺人”というのがキーとして絡んでくる物語でもあるので、子供がいる人が読めばその“苦痛”は激しく。
僕も、読んでいて動悸がしてくるほどの焦りと息苦しさを覚えました。
この本に限らず、「子供ができてから、小説を読んでても映画を見てても、自分の価値観が大きく変わったよな〜」と実感することが結構増えてきていたんですが、まさにその感覚が過去最大に引き出されるような作品でした。

「ああ、俺がそこにいたら、ジョニーも母親のキャサリンにも、こんなにツラい思いは絶対にさせないのに!!」という想いを抱きながらも、僕自身が物語に干渉できないのはもちろんのこと、自分自身を投影すべきはずの“父親”が物語にいないため、非常にもどかしさが募ってしまいました。

というわけで、序盤から読むのに苦痛なほどの展開が続くんですが、最終的に物語を満たすものはあくまで“希望”
もちろん、失われた過去は取り戻せないし、帰ってこないものは多い。
登場人物の一人が語る結論めいたもの

「アリッサが死んでいなければ、きみがあの通りにいることはなかった」ハントはジョニーの肩に手を置いた。「それが理由かもしれないな、ジョニー。もしかしたら、アリッサはほかの子どもを死なせないために死んだのかもしれない」
440ページ

も、ちょっと宗教じみていて、受け入れにくいところがないこともなくて。

それでも、序盤〜中盤で感情を揺さぶるほどの絶望を与えてきた文章が、同じように感情を揺さぶるほどの「愛」と「赦し」を叫び続ける終盤の展開はたまらなくて。
文章や言葉というものが、これほどまでに圧倒的なエモーションを持ち、力強く人の心を揺り動かすものなんだということを再確認させてくれる、本当に素晴らしい小説だった。

たった一つ不満を言うとすれば、物語の主要人物がある一点に“偶然”終結する理由が必然として語られないところ。
つまり、見方によっては“ご都合主義”の物語に見えてしまうところかもしれない。
この不自然さの説明として、上で引用したような宗教的な意味(奇跡)を持たせているんだろうけど、「神のおぼしめし」というキリスト教的感覚を持たない僕には、ちょっとできすぎかな〜とも感じてしまいました。

ただ、そんなことはこの圧倒的な物語の前では些細なこと。
序盤での「哀しみ」「絶望」「諦め」などのネガティブな感情から、ジョニーの唯一の味方である親友ジャックが抱える「罪」
そして、最後に訪れる「赦し」「愛」
そのすべての感情が、「文章を読み、その意味を理解する」というプロセスをすっ飛ばして、ダイレクトに心の中へと染み込んでくるようで。
いやー、まさに圧倒的!!
これぞ、小説の醍醐味!!

映画ではしょっちゅう泣いてしまう僕ですが、最近はすっかり忘れていた「小説で号泣」という感覚を久しぶりに思い出させてくれる一品でした。
読み手を選ぶ作品ではあると思うし、『童話物語』の前例からなかなかオススメしにくい一冊ではあるんですが、それでも、現時点での「歴代『このミス!』ベスト10作品」の最高傑作だと言い切って、絶賛しておきたいと思うのでした。

読むべし!

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