真相は、個人の告白では証明されないし、また、謝罪によって収拾するわけでもないのだ。 小説『キウイγは時計仕掛け』(森博嗣) ネタバレ感想

キウイγは時計仕掛け (講談社ノベルス)

前作『β』と前々作『α』の間が4年も開いてしまったので、「今回は結構すぐに続編が出たな〜」という印象を持ってしまいますが、それでも1年ぶりとなるGシリーズ。
シリーズを通して何が起きていて、何を描こうとしているシリーズなのかがイマイチつかみきれないまま刊行が続き、気が付けばこれで9作目。
全12作と言われているGシリーズの3/4が刊行されたことになるはずなんですが、やっぱり今回も進展があったのかなかったのかモヤっとしたままだったりして。

ほんともう!

このGシリーズはいつもスッキリしなくて、不満が無いと言えば嘘になるんですが、だからといって「もう読むのやめた!」と思えないのは、過去のシリーズ以上に“森博嗣節”が炸裂している文章そのものがあまりに魅力的だから。
悔しいけれどこの“魅力”に飲み込まれてしまっている僕は、これからもこのGシリーズについていくしかないんでしょうねぇ。。

『キウイγは時計仕掛け』の作品概要

2013/日本
著者: 森博嗣
出版社: 講談社

あらすじ

建築学会のため伊豆の大学を訪れた加部谷恵美たちは、宿泊先近くで西之園萌絵と再会した。一方、加部谷と共同発表する山吹は、国枝桃子と伊豆へ向かっていた。学会の会場となる大学には、不気味な宅配便が届いた。その中には、キウイフルーツに缶ジュースなどのプルトップが突き刺されたものが入っていた……。

感想

70 100点満点 scored by ultimate-ezキウイγは時計仕掛け

というわけで、1年ぶりの刊行となった本作『γ』もまた、非常に“Gシリーズらしい”作品でした。

つまり、もはや単体の作品として評価や判断のしようがない作品で、シリーズの最後にどういう“オチ”が来るのかによって、この作品に対する印象も全然変わってくるんだろうな、としか思えない作品で。
一応、ミステリーという位置づけで発表されているものの、もはやそこにあるのはミステリーの“型”のみ。
一般的なミステリーにおけるメインコンテンツである「犯人は誰?」「トリックは何?」といったものは完全に形骸化していて、ほとんど意味を持っていません。

しかも、少なくともシリーズの序盤までは“事件”の解決へ向けた意志を持っていたはずの登場人物たちも、シリーズが進む毎に「犯人」や「トリック」や「動機」に興味をなくしていっていて。
本作では、とうとう事件の犯人やトリックや動機は「Aかもしれないし、Bかもしれない」という、ふわ〜っとした状態で放置!
そして、その状況に対し、

たとえ相手が犯行を認めたとしても、相手が泣き崩れて謝ったとしても、そんなことは事件の解決でもなんでもない。真相は、個人の告白では証明されないし、また、謝罪によって収拾するわけでもないのだ。
188ページ

という一文が添えられるだけという…。

もはや、なんでこんな構成で面白い小説が出来上がるのかが自分でも全く理解できないんですが、これが面白いんだからしょうがない!

諦念的な思想でつづられるミステリーの形骸のような地の文は森博嗣の思想が満ち満ちていて、小説を読んでいるというよりも“哲学書”でも読んでる気分にさせられて。
それでいて、本筋と関係があるのか無いのかわからない独特の会話のやりとりだけで進行していく様は、どこか“ラノベ”っぽくもあり。
もはや、高尚な文章なのか低俗な文章なのかすらよくわからない感じ。
ただ、その“哲学書”にも“ラノベ”にも思える一文一文がやけに美しいんですよ。

全体(マクロ)を見ると何も見えないが、細部(ミクロ)を見るとそこに魅力的な文章がある。
これはもう、類似する作品が見つからない“Gシリーズ”というジャンルとしか言いようがありません。

さらに、今回はとある大学で行われている“学会”が物語りの舞台だったため、「大学とはどういう場所か」「大学での生活とはどういう感じか」という部分が繰り返し描かれていたのも印象的。
もちろん、登場人物たちは現役の学部生ではなく社会人や院生という立場で登場するため、なんとも大人っぽい視点から観た「理系大学の研究室」の雰囲気があふれ出しています。

僕も7年前まではとある地方大学の理系学科の院生だったんですが、今の感覚であの環境に足を踏み入れたら、当時感じていたのとは違う見え方がするはずで。
「きっと今の僕にあの環境はこう見えるんだろうな」と思える説得力のある描写に、“あの頃”の環境への懐かしさがこみ上げてしまいました。

そして、学生当時、僕なんかでも研究発表なんかをやる機会があったりしたもんですが、あの学会発表前のなんともソワソワした気持ちを喚起させる文章になんだかほろ苦い“青春”の味のようなものを感じてしまいました。

そうそう。
僕の大学生活は、合コン&サークル活動の華やかなキャンパスライフではなく、まさにこういう地味な生活だったんですよ!
だからこそ頑張って外に目を向けて、一生懸命ナンパしてたら今の奥さんと知り合いました!というのはまた別のお話です。。

そしてさらに、研究発表に対する登場人物の感覚として綴られる

最初は、もの凄く緊張したものだが、もう慣れてしまった。聞いている人の顔もだいたい覚えたし、自分の研究について隅々まで自分の知識が及ぶようになった。ようするに、自分からすべて発している状態に至ったのだ。だから、質問を受けても、特に困るようなことはない。自分に答えられないような質問ならば、誰にも答えれることはできない。学生の頃に、質問にどぎまぎしてしまったのは、まだすべてが自分から発したものではなかったからだ。
86ページ

という文章に、当時の自分の研究の浅さを突きつけられてしまいましたよ…。

そんなわけで、1年ぶりのGシリーズということで、登場人物たちとの再会を楽しむという以上に、7年ぶりに垣間見る“理系大学の研究室”の雰囲気に、すさまじくノスタルジックさを覚える読書体験になったのでした。

というわけで、冒頭でも書いたように「ミステリー」としてはなんとも捉えようのなかった本作ですが、その細部には本当にいろんなものが宿っていて。
純粋に会話の妙を楽しむのでも満足できるし、個々の文章から漏れ出る森博嗣哲学を楽しむのでも満足できるし、物語全体から感じられる“理系大学の研究室”の雰囲気を楽しむのでも満足できる一冊でした。

そして、もちろん、この評価でさえも、「Gシリーズ」の完結の仕方次第では大きく変わることもありえるとうい前提ありきですが、単体としてはちょっとあまりにも“アレ”だった『τ』『ε』あたりの印象と比べれば、純粋な一冊のミステリー小説としても楽しめる一冊だったと思うのでした。

ただひとつ、ちょっと文句を言わせて貰えば、前作『β』の時に、帯で「四季」の登場をネタバレしちゃっていて不満だという感想を書いたんですが、その感想の最後に「次こそは今回登場しなかった犀川さんというもう一人の「神」の登場を願い、、、」という文章を添えていて、実際に犀川先生の登場を待っていたわけですが、、、、

今回の帯!
「犀川・萌絵も参加の建築学会前日、学内で起きた殺人事件。」て!
全部言ってる〜!!

なんていうか、その〜。。。
確かに今回の犀川先生の登場は別に劇的でもサプライズでもなんでもないし、そうやって書いておくことで手に取るファンもいるんでしょうけど、2作続けてのこのネタバレっぷりはちょっとなぁ…。

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