気が済むまで何度でも観たい! 映画『裏切りのサーカス』ネタバレ感想

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「面白いけど、かなり“難解”な映画」という噂を聞いていて、ちょっと見るのを躊躇していた本作『裏切りのサーカス』。
(なんせ子どもがいるもんで、「なるべく一緒にいる時間を作りたいな〜」ってことで映画館に行く回数は激減したし、「じゃあ家でDVD見ようかな〜」と思うと、今度は暴れだしたり泣き出したりして2時間集中して映画を観るのは難しい環境になっちゃいまして。“小難しそう”という印象の映画は敬遠しがちな今日この頃です。。。)

でも、先日まとめた『1001 Movies You Must See Before You Die』2012年版の筆頭作品がこの『裏切りのサーカス』だったということもあり、難解なのを覚悟して鑑賞してみたわけですが……、確かにこれはスゴい!!

“難解”というのは確かにその通り。
僕も一回目観た時は正直「ポカ〜ン」となったんですが、公開時のキャッチコピー「一度目、あなたを欺く。二度目、真実が見える。」の言葉を信じて二度目の鑑賞に突入してみると、オープニングからものすごい数の“伏線”が張り巡らされていることに感激!!
もちろん、3回目、4回目と観ていくとどんどん発見が増えていくんでしょう。

ただまあ、一度観ただけではわからないように、“あえて”難解に作っているこういう映画って嫌いな人もいると思います。
もちろん、一回観ただけで伏線回収がバシッとキマる“大どんでん返し”の映画には僕も魅力を感じるし、「二度目を観ること」を前提に作る映画って“不親切”といえば不親切。
ただ、これだけエンターテイメントが溢れている時代に、同じ映画を(しかも一度観ただけでよくわからないものを)「もう一度観てみよう」と思わせるってそれだけで凄いと思うし、「これでイケる!」と判断した制作陣の“自信”もスゴイ!
しかも、そのスゴさが独りよがりなものではなく、実際に「もう一度観よう」と思えたし、二度観てみたら感激できる映画に仕上がっているってのがニクい!!

いや〜、たまにはこういう“繰り返し観るべき映画”ってのもいいもんです!

『裏切りのサーカス』作品概要

2011/フランス・イギリス・ドイツ合作 上映時間:127分 R15+
原題:Tinker Tailor Soldier Spy
配給:ギャガ
監督:トーマス・アルフレッドソン
出演:ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、トム・ハーディ、ベネディクト・カンバーバッチ

<あらすじ>
1960年代のロンドン。ある作戦の失敗でイギリスの諜報機関サーカスを引責辞職したジョージ・スマイリーに、ある日特命が下される。それは、いまもサーカスに在籍する4人の最高幹部の中にいる裏切り者=2重スパイを探し出せというものだった。

感想

95 100点満点 scored by ultimate-ez裏切りのサーカス

というわけで、噂に違わぬ傑作だった『裏切りのサーカス』。
正直、一度目の鑑賞時は“いろんなことが「わからない」状況で進行してしまうので退屈”ではあるんですが、二度目の鑑賞の満足度が凄まじく高い映画です!

特に、一度内容を知った状況で観る“オープニング”シーケンスの情報量の多さに驚愕します。
後にスマイリーとタッグを組むピーター・ギラムをはじめ、この日から2週間後にサーカスをクビになるコナー、ブタペストでの襲撃事件の日に当直をしていたウェスタビーなど、主要な登場人物がさりげなく登場していて。
“エンディング”シーケンスの逆再生的に撮られているため、オープニングとエンディングが明らかに“対”になっている構成もいちいちオシャレです。

他にも、サーカスを退職したスマイリーが眼鏡を新調するカットが入ることで、古いべっこうフレームをかけているスマイリーが登場したら、それは「スマイリーが退職する以前の回想シーン」で、新しい黒ぶち眼鏡の時は「現在」であることがわかるようになっていたりと、しっかりと映画をわかりやすくするための“記号”が盛り込まれていることがわかります。
(もちろんこれも一回目の鑑賞ではよくわからないんですけどね。)

また、自宅に帰ったスマイリーが“壁に掛かっている絵”を眺めているシーンがあるんですが、それも一回目では意味不明なシーンの一つ。
しかし、二回目の鑑賞では、そこにもはっきりとした“意味”が感じられて。
しかも、このカットでのスマイリーはカメラに背中を向けていて、どういう表情をしているのかは画面には映らないんだけど、しっかりと「心を掻き毟られている様子」が伝わってくるのも二度目の鑑賞の醍醐味になっています。

さらに、一回目の鑑賞で混乱を招くのが「登場人物がどこにいるのか」を把握しにくいところなんですが、実はそこにも決め細やかなルールが設けられていて。
1つは、場面移動する直前の会話が次のシーンでの居場所の説明になっているというルール。
例えば、スマイリーとギラムがコントロールの自宅を訪れるシーンでは、一つ前のシーンで「コントロールの家の鍵は手に入れたか?」という会話があることで、しっかりと物語の繋がりを説明しているというわけです。

そしてもう1つ。
ヨーロッパ各国に舞台が飛ぶ本作ですが、プリドーが住んでいたり、リッキー・ターが向かう場所だったりと“フランス”が重要な舞台の一つになっています。
ここでも「はい。今フランスですよ〜」というあからさまな説明は無いんですが、画面のどこかにエッフェル塔が映るカットが用意されていて。
つまりエッフェル塔が「はい。今フランスですよ〜」の“記号”として機能しているわけです。
「エッフェル塔=フランス」はわかりやすい記号で、僕が気づいていない他の“記号”もきっとあるんじゃないかと踏んでいます。気付いた人は教えてほしいっす!!)

という感じで、1回目ではなかなか気がつかないけれど、2回目を観てみるとそこかしこに“ヒント”や“記号”が隠された映画であることがよくわかって。
「他にもいろいろと“ヒント”があるんじゃないか?」ということで、2回目を観終わった後でも、さらにもう一度観たくなるという“病みつき注意”の映画です!

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というわけで、“構成の妙”、“緻密な伏線回収”が魅力の本作なんですが、実はそれ以上に最大の魅力となるのが映画の根底に流れる“美学”なんです!
“美学”の映画と言えば、同じく2012年公開の映画で『ドライヴ』っていう超かっこいい映画がありましたが、本作もまたとにかくクソかっこいい映画でした。

とにかく、主人公ジョージ・スマイリーがかっこいいんですが、何が良いって、このスマイリーという男。びっくりするほど、全然しゃべらないんですよ。

あれだけ饒舌に情報を盛り込みまくったオープニングのシーケンスでのスマイリーは一言も口を利かず。
どんどんストーリーが進み、ようやく最初にスマイリーの声を聞けるのは映画開始から20分以上が過ぎてから
スパイ映画と言えば、『007』シリーズや『ミッションインポッシブル』みたくど派手な展開を想像しちゃいがちですが、淡々と仕事をこなし、任務を遂行していく姿に独特のかっこよさがあります。
うん。実際のスパイの仕事ぶりって、きっとホントはこんな感じなんだろうなぁ。
(“美学”で言えばスマイリーが川で泳ぐシーンもキャラ造形としては印象深いんですが、、、川のシーン、あんなに尺いる?というのは思いましたが。)

そんな「スパイ映画」としての独特のアプローチが一番印象深いのが、“もぐら(裏切り者)”を捕まえるシーンにあらわれています。
本来であればこのシーンは“クライマックス”として盛り上げまくるはずのシーンなんですが、なんとこの映画、いちばん肝心な「お前だったのか!!」のシーンがすっぽりと抜けているんですよ。

“もぐら”が敵国のエージェントと情報交換している現場に乗り込もうとするその瞬間、なんと画面が転換しちゃって。
<一方その頃ギラムは、、、>という別シーンがカットイン。
場面が戻ると、椅子に座ったままの姿勢で、感情を見せない黙した顔で銃を構えるスマイリーが扉越しに見えて。
銃身の先では、「君は勲章と、モスクワに部屋が貰えるよ」「自分はシベリア送りだ。」なんていう“もぐら”の会話が聞こえているだけ。
ゆっくりとカメラが回りこみ、そこでようやく“もぐら”の正体が判明するという具合で、何故か既に事が終わっちゃっているというわけです。

本作をミステリーとしてみると“最重要”なはずのシーンなのに、ビックリするほど淡々としているこのシーン。
ただ、やっぱりここでも、2回目の鑑賞では台詞の一つ一つにキッチリと意味があることがわかって(換気扇のくだりとか。)、しっかりと上質なミステリーであることにも間違いないわけです。

やー、この辺りのバランス感覚が、ほんと絶妙です。

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ただ、こうしてあえて“映画的な盛り上がり”を排除しているというのは、すなわち、本作が「二重スパイの裏切り者を探すミステリーが主題の映画ではなく、スマイリーから観る“スパイの世界”を主題に扱った映画」だということの証明とも言えるわけで。

自分自身もコントロールから“もぐら”の疑いをかけられていたことを知ってしまうシーンや、リッキー・ターをパリに派遣する際の「必ずイリーナを救い出せ」という要求に「努力はしよう」という一言を告げるシーン(プリドーからの報告で、スマイリーはイリーナが死んでいることを知っているはずなのに!)
相棒として行動を共にしていたギラムにリッキーを匿っていることを伝えていなかったのがバレた時の表情(ギラムが捕まった時のことを考えて味方にも100%腹を割ってないってことですよね。)など、スパイの世界の酸いも甘いも知リ尽くしたかのようなスマイリーの生き様がビシビシと伝わってきて。

ジェームスボンドみたいに“憧れる”タイプのヒーローではないかもしれないけど、このスマイリーという生き様とプロ意識の高さに痺れてしまいます!

それでいて、「奥さんのアンとうまくいってない」というプライベートでの問題を抱えていて。
そこが“優秀なスパイとしての唯一の弱点”であることを敵対する相手に見抜かれちゃっているという人間らしさが、これまたリアル。

確かに“アン”のこととなると我を忘れちゃう節があるスマイリー。
ただしそれもあからさまな説明描写は無く、「扉にはさんだ木片から、外出中に自宅に侵入者が入っていることに気づいたスマイリーは、ちょっと慌て気味に部屋に入り、テーブルの上のナイフに気づいた途端、いつもの冷静さで「リッキー」に語りかける」というシーンで、“アンが帰宅したのかと思って慌てる”という人間らしさがる瞬間で匂わせるというバランスが絶妙です。
(アン宛の手紙にふっと視線を向ける程度の目線の演技なんかも素晴らしい!)

ただそんな風に、ちょっとしたほころび(アンという弱点)はあるものの、基本的にはクールに黙々と仕事をこなす職人スパイなスマイリー。
そんな彼が、実は「スパイ」の狂気に取り付かれているように見えるシーンってのもありまして。

それが、「カーラー」との過去をギラムに語りかけるシーン。
これまでの人間関係の整理もかねて、本作で唯一と言っていいほど状況説明的にスマイリーが語りまくるシーンなんですが、ここでのスマイリーがなかなかの怖さなんですよ。
カメラワーク的にも、スマイリーの右側に大きなスペースを空けた構図で。
スマイリーがそこに「カーラー」の姿を思い浮かべ、そのカーラーに向かって話しかけているのがわかるんですが、その“空想”に取り付かれるように次第にスマイリーの顔が狂気に染まっていくのが怖かっこいい!

そうです!
ゲイリー・オールドマンってバットマンシリーズなんかでの役のせいか「渋めのイケメンおやじ」っていう印象になっちゃってましたが、あの『レオン』でのイカレ汚職警官スタンスフィールド役でのキレキレっぷりは消えてなどいなかった!

当時、あのイカれっぷりに憧れた小学生の僕は、「ヨーグレット」と「ハイレモン」を食うときに“あの顔”してましたからね!
もう!この顔が好きなんですよ!!
年取っても完全に丸くなってはいないこのオヤジ、かっこいい!!!

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というわけで、主人公スマイリーのスパイ美学と、その美学がはらむ狂気のかっこ良さが魅力の作品だったわけですが、“美学”と言えばもう一人かっこいい男が。

それが、開始5分で死んだと思われていたプリドーという男。
これまた2回目を鑑賞してこその感動なんですが、実は生きてたプリドーがフランスの片田舎で臨時教師をしていて、そこでの少年との交流がグッと来きまして。
特に、その少年との最初の会話が実に良い!!

少年に名前を聞き、少年が「ビル」と名乗ったことに対し、プリドーが返す言葉なんですが、

「ビルを何人も知ってるが、みんないい奴だ。」

これがたまらない!!
(一度目の鑑賞では全く意味がわかりませんでしたが。。。)

あんな目にあってもなお、この言葉を言えるくらいにビル・ヘイドンへの想いを持ち続けていたプリドーだからこそ、最後に取るあの行動が美しい!
“愛が憎しみに変わって…”ということではなく、彼のことは愛したまま。
それでも“ケジメ”をつけないといけないという苦悩と美意識で引き金を引くプリドーの表情はすさまじく魅力的!
そして、プリドーの存在に気が付いたのかプリドーの方に視線を向け、放たれる銃弾を受け入れたヘイドンの決意の表情もまたグッときました!

いやもう、言ってしまえば、この一連を含むエンディングのシーケンスは全てが素晴らしいですよ!

フリオ・イグレシアスの「La Mer」という曲に合わせて、スマイリーがサーカスに復帰し、かつてコントロールが座っていた椅子に座るところでスマイリーの“美学”の映画はキチッと終わりを迎えるんですが、それと並行して、プリドーという“哀れなピエロ”がそのケジメをつける“愛”の映画としても美しいエンディングを迎えるわけで。

なんなんでしょう、この完成度!!

このエンディングの凄まじい完成度があるからこそ、「うーん、よくわからなかったけどもう一度観てみよう!」と思ったわけで。
この映画が好きという人は、間違いなくこのエンディングにやられて。もう一度アタマから映画を観てしまったことで、さらにヤラレてしまった人なんでしょう。
まあ、そうなってしまうのも仕方ないとしか言いようのない、どう考えても“完璧”なエンディングでした。

https://www.youtube.com/watch?v=idUjpNL53RE

とういわけで、もう“完璧”という言葉を使ってしまって、これ以上説明のしようもないんですが、あと一つだけこの映画について好きなシーンがありまして。

それは、コントロールを追い出しサーカスのリーダーの座についたパーシー・アレリンという男について。
もちろん、“もぐら”によって担ぎ上げられただけのリーダーで、実は良いようにに使われていた雑魚キャラ傀儡だったわけですが、スマイリーによって“もぐら”の正体が突き止められ、落ちぶれてしまったアレリンの姿がもう、たまらなかった。

これまたこの映画の“あまり多くを語らない”という特徴のせいで、彼がどういう目に合ったのかの詳細はわからないんですが、とにかく“これ以上ないほどのしょんぼり顔”“これ以上ないくらいにとぼとぼ”と歩く姿がイッツ・ソー・キュート!!

このトビー・ジョーンズという役者は、あの悪名高い映画『ミスト』(僕は大好きなんですけどね。)で主人公側についた高スペック店員のおっさんを演じていた役者さん。
『ミスト』の時にも「変な顔だな〜」とは思っていましたが、あのしょんぼり顔は輪郭からしてちょっと他の人では表現できない顔でした。

いやー、ほんと、“いい顔”をする役者揃いの映画だったな〜。

というわけで、本日も長々と書き綴ってしまいましたが、まあとにかく「かっこいい映画」だった本作『裏切りのサーカス』。
カメラワークや、画面の色設計からして計算尽くされた映画で、“センス”を感じさせる画作りも魅力だったんですが、監督のトーマス・アルフレッドソンって、あの『ぼくのエリ 200歳の少女』の監督なんですね。
『ぼくのエリ』もまた邦題を除けば“完璧”の映画だったわけで。
そりゃあまあ、これだけの“美学”を込めた映画を撮れるわけだ!

他にどんな映画を撮った監督なのかちょっと把握してないんですが、この2作を観るだけでも間違いなく猛烈要チェックの監督のようです!
他の作品も観てみなくちゃな〜!!

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