僕は父でしかない。父にしかなれない。 映画『少年は残酷な弓を射る』ネタバレ感想

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なんとなく暗示的なタイトルの映画『少年は残酷な弓を射る』。
当然このタイトルは何かのメタファーなんだろうと思っていたんですが、、、
なんと、“少年が残酷な弓を射る”というストーリーの映画だったんですよ、これが!!

そんなわけで、あまりにもド直球なタイトルのインパクトがすごい映画だったわけですが、内容は凄まじく濃厚かつ上質で。
“子供を育てる”ということが、そのまま“加害者を育てる”ことにもなりかねない恐怖というんでしょうか、最愛の息子が“悪魔”なのかもしれないっていうキッツい事実を突きつけてくる映画でした。

そういう意味では、子育て中、特に“育児疲れ”を感じているときには絶対に見ちゃいけない映画なのは間違いなく。
「母と息子」の話なので、“男の子を育てているお母さん”は、かなり心に余裕がある時にのみ鑑賞することをオススメしたい映画でした。
(ちなみに、僕はこの映画を奥さんには見せませんでした。。怖いもん。。。)

『少年は残酷な弓を射る』の作品概要

2011/イギリス 上映時間:112分 PG12
原題:We Need to Talk About Kevin
配給:クロックワークス
監督:リン・ラムジー
出演:ティルダ・スウィントン、ジョン・C・ライリー、エズラ・ミラー

<あらすじ>
自由奔放に生きてきた作家のエバは子どもを授かったことでキャリアを捨て、母親として生きる道を選ぶ。生まれた息子はケビンと名づけられるが、幼い頃からエバに懐くことはなく、反抗を繰り返していく。やがて美しい少年へと成長したケビンは反抗心をますます強めていき、それがある事件の引き金となる。

感想

66 100点満点 scored by ultimate-ez少年は残酷な弓を射る

というわけで、子育て中の身には、なかなかの劇薬映画だった本作『少年は残酷な弓を射る』。

主人公エヴァはくたびれて老け込んだ中年女性。
家や車にはペンキをぶちまけられ、ご近所でも村八分な暮らしをしているらしいことが見て取れます。
道を歩けば、たまたま出会ったおばさんから出会い頭のビンタ(フルスイング)を食らったり。(これ、ほんとにひどい!)
明らかに能力以下の職場で働いていて、そこの同僚の男からの誘いをやんわりかわしていたら、「お前ごときが!」のテンションで罵倒されたり。
とにかくもう負のオーラがムンムンで、“決定的な何か”の“その後”を生きているらしいことが見て取れる女性なわけです。

一方、旅行本のライターとして名をはせ、見るからに幸せで自由で充実した暮らしをしているエヴァの“過去”の姿も並行して描かれていて。
恋人のフランクリンと「やってみよっか!」という軽いノリで中出し!からの出来ちゃった結婚!
渋々ながらライターとしてのキャリアを諦め、専業主婦として出産・育児の日々が始まります。

そこからの、エヴァと息子(ケヴィン)の確執こそが本作のメインテーマ。

ケヴィンはなぜかエヴァには全くなつかなくて。
乳児期から、フランクリンが抱くとすぐ泣きやむのに、エヴァとふたりだと所構わず泣きっぱなし。
3歳になっても言葉を話さず、懸命に向き合おうとするエヴァに対して明らかに反抗的で。
エヴァが大切にしている地図やら絵葉書やら(ライター時代の栄光にまつわる品)をボロボロにしたり。
さらに、6歳くらいになってもオムツが取れず。取り替えたばかりの洋服に“わざと”ウンチを漏らしたりと、嫌がらせを繰り返します。

ウンチ事件でカッとなってしまったエヴァは思わずケヴィンに暴力を振るってしまい、その結果(故意ではないものの、)ケヴィンは骨折してしまうんですが、帰宅した父親に対しエヴァの暴力をチクらずに、自分の非による怪我であると証言します。
ただ、これも決してエヴァを庇ったということではなく、エヴァの心に“罪悪感”を植えつけることを目的とした悪意ある言動なわけで。

つまりケヴィンは、どう行動するのが一番エヴァを追い詰めるかを本能的に理解しているかのように、その場その場で最善手(エヴァから見ると最悪手)を選ぶという最悪の子どもなわけです。

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視点はあくまで“エヴァからの視点”に固定し、ケヴィン側の視点を排除することで、根本的に「ケヴィンが何を考えているかわからない」という見せ方をしているのも巧い!

僕はまだ育児歴9ヶ月弱の若輩者ですが、子供ってやっぱり“何を考えているのかわからない存在”で。
“なんでそんなことするかわからない”からこそイラっとすることっていうのはよくあるケース。
そういう意味ではケヴィンの行動の一個一個は“育児あるある”なネタなんですが、“育児の嫌なとこ”を繰り返し繰り返し重ねることで、エヴァの心が磨り減っていく様が手に取るようにわかるのも巧い!

いやー、なんだかんだで育児って「嫌だな〜」「幸せだな〜」の間を行ったり来たりしながらやっているわけで、その「嫌だな〜」のところだけの総集編とも言うべき本作は、そりゃまあキッツい映像になっちゃうわけで。
そして、追い詰められている母親の視点から見た育児って、「嫌だな〜」の部分ばかりが強調されてしまうのも理解できてしまって…。
ケヴィンが規格外の“悪”というわけではなく、タイミングと見方によってはどの母子もエヴァとケヴィンになりうるというバランスで描かれているのが、巧い!

巧いけど、、、キッツい。。。

(ちなみに、父親のフランクリンはいい人なんだけど、エヴァがげっそりしている横で、ケヴィンをちょっと抱っこしただけで泣き止ませ、「ほらー、こうやればいいんだよ〜」なんて言っちゃうのも、エヴァ視点では腹立たしい。でも、僕も奥さんから見るとこういう風に見えているのかも。。。と反省せざるをえない!怖い!この映画怖いわ!!

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さらに時が経ち、ケヴィンは超絶美少年に成長。エヴァとフランクリンの間には妹のセリアが生まれます。
相変わらずエヴァに対しては敵意をぶつけるケヴィンも、フランクリンとの親子関係は良好。
フランクリンからプレゼントされた“弓”(子供の頃にはおもちゃの弓だったけど、今では本格的なアーチェリー)にはまり、庭で練習に励むケヴィンの姿は、どこにでもいる普通の男の子。
妹のセリアとも仲良しでいい兄のように見えます。

しかしある日、事故なのか故意なのか不明ながら、弓でセリアを失明させてしまうケヴィン。
エヴァ視点から見れば“エヴァに対する嫌がらせ”をするいつものケヴィンではあるんですが、セリアを傷つけたことに対し全く罪悪感を見せないケヴィンの“異常性”に、ようやくフランクリンも違和感を覚え始めます。

正直、中盤までは「ケヴィンの悪意はエヴァの思い込みなんじゃ?」という思いもあったんですが、ここにきてようやく、ケヴィンが本当にヤバイ、ってことを確信するわけですが、、、それに呼応するかのように、ついに“決定的な事件”が引き起こされてしまいます。

ここから先は物語の核心についての完全なネタバレになっちゃいますが、弓と矢を手にしたケヴィンは自宅でフランクリンとセリアを殺害
さらに学校で体育館を封鎖。中にいたスクールメイトたちを一人づつ弓で射殺しはじめます。
それこそ“コロンバイン高校銃乱射事件”なんかを思わせるような感じで、“残酷な弓を射る”わけです。

警察に呼ばれ学校へ向かい、警官隊によってこじ開けられた体育館の扉の中から連れ出されるケヴィン。運び出される無数の死傷者たちを見つめるエヴァ。
パニックになりながら体育館を見つめていた大人たち、つまりは被害者の親たちの中で、自分だけが加害者の親だったことに気づいたエヴァの蒼白の表情は、ちょっと忘れられそうにありません。。
学校に着いた時には、ケヴィンの行為にうすうす気がついていたっぽいけれど、それでも認めたくなかった“真実”を突きつけられた気持ちは一体どれほどのものだったんだろうか。。。

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その後、少年院に収監されたケヴィン。
一方のエヴァの日常は、冒頭で描かれていたように、道を歩けば罵声を浴びせられ、家にはペンキをぶつけられ、見知らぬ人からビンタされ。事実を知った同僚にも屈辱的な言葉を吐かれる、悲惨な毎日です。

それでも“ケヴィンの母”である事実から逃げられないエヴァは、事件から2年が経ち、18歳になるため少年院から刑務所へと移管されることになるケヴィンの元を訪れます。
ケヴィンは相変わらず美少年ながら、丸刈りで、おそらく少年院でいじめられているんでしょう、傷だらけで汚れだらけの姿です。

「2年ほどで出られるだろう」と告げるエヴァに対し、「これから行くところがどんなところか知ってるでしょ?」と初めて弱音をぶつけるケヴィン。
以前の挑発的な視線は消えうせ、ケヴィンの表情は怯えきっています。

「何故あんなことを?」
ケヴィンに対し、こんなことを聞いてももはや手遅れであることは知っているはずなのに、問いかけるエヴァ。
それに対するケヴィンの答えは。

分かっていたけど、今はわからない

そんなケヴィンを抱きしめるエヴァ。
結局最後までケヴィンの真意はわからないまま、映画は幕を閉じます。

この結末に対しては、本当にいくらでも解釈をすることができると思います。
子供をうまく愛せなかった母親と、「愛されたい」「かまって欲しい」という思いを屈折させてしまった息子の話と捉えることもできるし、たとえどんな子であっても最後まで愛する“母性”の話と捉えることもできるでしょう。

そして僕は、「“母から子への愛”って最強!」という“母性賛歌”の映画だと解釈しました。

おそらくエヴァは母親として完璧ではないし、むしろ超ダメな母親。
明らかに子どもを生んで・育てるってことを舐めてたと思うし、育て方も“支配欲”が強すぎて。
仕事を辞め、自由な暮らしを失ったことは自分の決断だったにも関わらず、その責任をケヴィンにぶつけていたのはまあ、最悪です。最悪

一方のケヴィンも問題がなかったといえばそうでもなくて。
エヴァのダメなところを反射していたのかもしれないし、エヴァ育て方が悪かったのも事実なんだろうけど、やはり“生まれながらに悪”といいますか、“忌み子”みたいな者だったんだと思うわけです。

言うなれば、エヴァとケヴィンは「お互いにお互いを憎むことを運命付けられた母子」で、ケヴィンが引き起こした事件はケヴィンのせいでもエヴァのせいでもなく、“そういう運命だった”としかいいようがないんじゃないかと思っていて。
そして、そんなふたりだったけれど、それでも最後のよりどころは“母と子としてのお互い”だけだったわけで。
“憎しみ合うべく定められた二人”という悪しき運命をこじ開けたのは“母と子の愛”なんだと。そう思いました。

実際問題として、やっぱり母と子の間には、父では入り込めないダイレクトなつながりってものがあって。
実際に子どもを育てていても、やっぱり「お母さん」には勝てないな。。。と思ってしまう瞬間って少なくないものなんですよ。

だから、女性がこの映画を見た場合、僕の「“母性”ってすごいな〜」という“他人事”っぽい感想にムカつかれてしまうかもしれないんですが、「母親と比べてしまうと“他人事”にならざるをえない」。つまり、「“家族”という物語の中で、どうしても“脇役”になってしまう」という父親の苦悩ってものもあるんですよ!

本作でも、父親はその他大勢と同じように“残酷な弓”で射られてしまうわけで。
う〜ん、やっぱり「父」って「母と子」の物語の脇役なんすかね!!

ただもう、それならばそれでしょうがない。
それならば、残酷な“距離感”に射られながらも、名脇役として家族を支える「父」になってやろうじゃねぇか!と思ってやりますよ!!

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というわけで、濃密な「母と子」の物語を前に、「父」としての決意(しかもやや後ろ向きで開き直り気味の決意)を固めることになった本作。

感情を抜きにして純粋に“作品”としてみた場合には、複数の時間軸を並列に描き、時にそれらの時間軸が交錯する複雑なプロットながら、言葉による説明は一切ないのにすんなりと把握できる構成がスゴい作品で。
“決定的な何か”の事後であることが明らかで、その“決定的な何か”とは何なのか?という部分で緊張感を持たせながら話を引っ張っていく展開も巧い。

さらに、具体的に残酷な描写は少なく、実際にケヴィンが人を射るシーンの描写、特に「血」がほとんど描かれない作品なんですが、冒頭での「トマト投げ祭り」「エヴァの車や家にぶつけられる赤いペンキ」などで「赤」が印象に残る映画で。
これってもちろん「血」のメタファーなんでしょうけど、実際に「血」を描かないことで余計に事件の残酷性が刷り込まれてしまい、ケヴィンが行った行為がより際立っているのも巧いところです。

ただ、最終的には予想外のことが何一つ怒らない映画ではあって。
“決定的な何か”もあまりに想定内
序盤から終盤まで独特の魅力が溢れていただけに、着地点があまりに普通なのがちょっと「がっかり」してしまったのも事実なのでした。

もちろん上述したように「父」という存在について非常に考えさせられる映画で、(もちろん女性が見たら「母」について考えさせられる映画なんだと思います。)、今なお結論がでないほど後を引く映画ではあるんですけど、、、もう少し、あと一展開の“予想外”があったら最高だったんだけどなぁ。。。

そんなわけで、散々引っ張った“事件”のインパクトが弱すぎる作品ではあるんですが、上質で素晴らしい映画ではあることは否定のしようもなく。
まして、今すでに「親」である人や、今後「親」になる可能性のある人にとっては、ものすごい後味を残す映画なのも間違いありません。

かく言う僕も、あっさりと射られてしまう「父」として、それでも息子と向き合っていくことの意味について考える機会をくれた本作との出会いは、素晴らしい出会いだったと思うのでした。

Commentsこの記事についたコメント

2件のコメント
  • ゆあ より:

    確か妹が失明したのって矢じゃなくて薬品だったと思いますよ。
    それと父親はケヴィンがやったとは思ってなかったと思います。(おそらくまだ信じてない)

    • ultimate-ez より:

      確かに言われてみれば薬品で失明したんだったような気がしてきました。なんでこのとき”弓で”って書いちゃったんだろ…。
      ただ、父親は最後の方はケヴィンに不信感を抱いていたと感じました。もちろん明確に描写されたわけではないんですが、きっと気づいたんだと私は思っています。

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