知人から「ヤベー映画だ」との紹介を受け手にした本作『ルビー・スパークス』。
なんとなく恋愛映画っぽいジャケットに、ベタベタの恋愛映画っぽいジャケ裏の解説。
いざ観始めてみると序盤からの展開がやっぱり「ベタ」な感じで。
一体この映画のどこにそんな魅力が。。。と、知人の映画センスに疑いの目を向け始めていたんですが、終盤の展開というか演出に驚愕!
確かにアレはやべぇ!!
その後のオチはやっぱり「ベタ」な感じで、結局映画全体の筋としても「ベタ」なんですけど、たった1シーンの衝撃だけで十分に満足のいく映画でした。
作品概要
2012/アメリカ 上映時間:104分 PG12
原題:Ruby Sparks
配給:20世紀フォックス映画
監督:ジョナサン・デイトン, バレリー・ファリス
出演:ポール・ダノ, ゾーイ・カザン, アントニオ・バンデラス
<あらすじ>
19歳で天才作家として華々しくデビューしたものの、その後10年間にわたりスランプに陥っているカルヴィンは、夢で見た理想の女の子ルビー・スパークスを主人公に小説を書き始める。するとある日、目の前にルビーが現れ、カルヴィンと一緒に生活を始める。しかし、ルビーが自分の想像の産物であることを隠そうと、カルヴィンは周囲と距離を置き、そのことに寂しさを覚えたルビーは、新しい仲間たちと交流を広げていく。そうして次第に関係がぎこちなっていく2人だったが……。
感想
というわけで、なかなか衝撃を受ける作品だった『ルビー・スパークス』ですが、冒頭で何度も書いたとおり基本的にはかなりベタなお話で。
「夢で見た理想の女性をネタに妄想小説を書いていたら、妄想の彼女が現実に現れた!」っていうのが本作のかなりざっくりとしたあらすじで、(主にエロ系の)小説や映画などで使い古されたネタという以上に、「男なら一度はこんな妄想したことあるよな〜」という感じのお話です。
主人公カルヴィンは小説家。
しかも10代で発表したデビュー作が超ベストセラーになっちゃったような、自他共に認める天才作家です。
ただしそれから10年、いまだに第2作目を発表できていない一発屋でもありまして。
10年間「産みの苦しみ」の中でもがいていたカルヴィンはなかなかの病みっぷりなうえ、有名な天才作家だから言い寄ってくる女は少なからずいるけれど、父親が死んだ直後に元カノに捨てられたトラウマから女性不信もかなりこじらせているメンドクサ〜イ奴。
“具現化するほどの妄想を膨らませるための下地”と、“妄想を具現化するほどの文章力”を持ち合わせている人物として、これはなかなか説得力のあるキャラクターです。
妄想で生み出される女の子の設定もやや斬新。
ブリブリで萌え萌えな女の子ではなく、わりと波乱万丈な恋愛経験を持つ“ややビッチ”タイプの女の子。
これまた、「モテナイ文系男子はこんなのが好きなんでしょ」的ステレオタイプをやや逸らしながらも、カルヴィンみたいなタイプがハマってしまう女性といわれるとかなりの説得力!
超絶美少女とは少し違うけれど、カルヴィンを振り回しそうなヤンチャっぽいルックスも非常にリアルです。
というわけで、ベタな話を成立させる主役の2人に関しては、キャスティングもキャラクター設定もこれ以上ないってくらいのハマりっぷり。
散々「ベタな話」と悪口かのように書いてますけど、本作の「ベタ」は「適当にそれっぽく上辺を取り繕いました」という意味でのベタではなくて。
個々の要素にちゃんと説得力を持たせる丁寧なつくりはかなり好印象。
そして、物語の骨子を丁寧に描いているからこそ、クライマックスの“アレ”が凄まじいインパクトを生むわけで。
あの衝撃の下地は、序盤からしっかり整えられていたというわけです。
うん。これはいい映画!!
※ここからは「クライマックスの“アレ”」についてのネタバレになりますので、未見の方はご注意ください。
不思議な力で「理想の女性」を具現化したカルヴィンですが、序盤は暴走せずに、むしろ書きかけの小説を封印。
“不思議な力”をこれ以上使わずに、今いるありのままのルビーとの恋愛を守ろうとします。
この辺、「よっしゃ、いい女を思いのままに☓☓したり○○したり■■したり・・・グヘヘ!」と考えてしまうエロマンガ的展開にならないあたりもカルヴィンの純粋さをうまく表しています。
しかしその後、徐々に恋愛がうまくいかなくなり、超女々しくてしょぼいカルヴィンはルビーに捨てられかけてしまって。
そこで、“やっぱり”と言うべきなんでしょうか、“不思議の力”の封印を解いてしまうわけです。
ただ、それでもなかなか思うようには行かず。。。
そして、一度封印をといたことでタガが外れ、ちょっと理想と違うとすぐに文章を訂正。
細かい調整を繰り返していくんですが、ルビーの性格はどんどんと奇怪な方向へ。
最終的に「自由奔放で感情の赴くがままに行動する不思議ちゃん」が出来上がってしまったうえ、二人してとあるパーティーに参加した時、カルヴィンが目を離した隙に知人のおっさんとノリノリで浮気っぽい行動をとってしまいます。
一方その頃、パーティー会場で元カノと偶然再会したカルヴィンは、何気ない会話ののはずが元カノと口論に。
「結局あなたは自分のことが好きなだけ。だから別れたのよ!」とド直球をぶつけられて凹みまくり。
そんなタイミングで今カノの浮気未遂現場を目撃してしまったもんだから、カルヴィンの感情は限界突破してしまいます。
「お前は俺から離れることは出来ないぞ!!」と気持ち悪く言い切るカルヴィンにドン引きのルビー。
しかし、カルヴィンはルビーを縛り付ける“不思議な力”を本当に持っているわけで。
ここからの展開は、本当に超上質のホラー。
凄まじい緊迫感のクライマックスを迎えるわけです。
これまでも、ルビーを自由に操ることができたカルヴィンですが、その時はあくまで“ルビーには気づかれないように”能力を使っていて。
しかし、今回は「ルビーに“能力”を知らしめること」が目的。
だから能力の使い方が非常にエゲツナイ!!
おそらく、「ルビーは部屋から出ることができなかった」という文章が書かれたんでしょう、「見えない壁」に阻まれて部屋から出ることが出来ないルビー。
さらに「右手の指を鳴らし続けた」と書けば、右手が勝手に指パッチン(エンドレス)。
「フランス語を話す」と書けば、理解することすらできないはずのフランス語が、口から飛び出すわけです。
しかも、「フランス語を話す」という描写は、序盤で「本当にルビーを思いのままに操ることができるのか?」を試す時にも使った描写。
序盤では非常にコミカルだったはずの「フランス語を話す」シーンが、状況が変わったことで「ホラー描写」に変わっているのがより印象的です。
その後も「ダンスを踊る」「四つんばいになって犬のまねをする」と無茶ぶりは続き、最終的には「カルヴィンを褒め称える」という文章を繰り返し書き続けるカルヴィン。
完全に「恐怖」の表情が顔にへばりついたルビーですが、やはりカルヴィンの書いた小説どおり、「カルヴィンは天才!」「カルヴィンは天才!」と叫びながら踊り続ける様は完全なる狂気!
これは、怖すぎるッ!!
天才と称されながらも、いろいろとこじらせてしまったモテナイ男の妄想。
その極限の果てにあったのが「ルビーという“理想の女性”との恋愛」ではなく、「あなたは天才!」と賞賛を受けたい!という承認欲求だったっていうのが、なんとも物悲しい。
でも、その気持ち、わからんではないですよ!!
その後、狂ったようにキーボードを打ち続けたカルヴィンはついにタイプライターを破壊。
カルヴィンの“能力”から逃れたルビーは、当然ながらダッシュで逃走します。
自分のやってしまったことに自責の念を募らせたカルヴィンは、書きかけの小説の最終章として「ルビーはカルヴィンの支配から解き放たれた」「もう、ルビーは自由だ」という文章で小説を完結させることを選びます。
その後の展開は淡々と。
再び“ルビーとの出会い以前”の日常へと戻ったカルヴィンは、ルビーとのエピソードの全貌を小説として発表。
10年ぶりの新作の小説を発表したことで、ようやく健全に社会復帰を果たします。
そして、昔のまま犬の散歩をしているところで、ルビーと偶然の再会!
「カルヴィンと過ごした日々」を忘れ、“自由”に生きているルビーとの間に、もう一度(というか“今度こそ”)何かが生まれそうな余韻を残しながらエンドロールへ。。。
クライマックス以降の収束は、なんといいますか「この手の話で一番やりそうな締め方」という感じ。
冒頭にも書いたように、オチはものすごーくベタなのでした。
というわけで、クライマックスのカルヴィン暴走シーンのインパクトが凄まじい点を除けば、ホントに「ベタ」な作品だったわけですが、クライマックスのインパクトだけで満足させてくれる作品だった『ルビー・スパークス』。
作中でカルヴィンが持つ“能力”は特に斬新なものではなく、僕自身、中学生や高校生の頃に妄想したことはあるんですけど、僕ごときの妄想だと、その使い道といえば100%「エロ」方向で。
クライマックスでのカルヴィンの無双っぷりは、想像を大きく超えた使い方!
「エロいこと」をするためではなく「決定的な恐怖を植えつけるため」。そして「絶対的な服従を誓わせるため」に使う時に真価を発揮する能力なんだな〜と感心してしまいました。
まあ、僕がこの手の「エロい妄想」をはじめたきっかけといえば、『ジョジョの奇妙な冒険』というマンガに出てくる岸辺露伴というキャラクターが使う「ヘブンズドアー」という能力を見たからだったりします。
ジョジョ好きが集まって酒を飲むと、「ジョジョにおける最強のスタンドとは?」という他愛もない話で盛り上がったりするんですが、作中でも「最強」として描かれている主人公・ラスボスの能力(GER、MIHなど)と並んで、最強候補に頻繁に名を連ねるのが「ヘブンズドアー」。
「ヘブンズ・ドアー」と言えば、人をマンガにすることで、その人の記憶を読んだり、逆に情報を書き込むことで相手を思いのままにコントロールすることができる能力なんですが、『ルビー・スパークス』を観たことで、改めてこの能力のヤバさに気づかされました。
ジョジョの作中では「決定的な恐怖をうえつけるため」という風に使われることは少なかった能力ですが、使い方一つでは『キングクリムゾン』級の帝王の能力!
「多数の部下を服従させるボス」たりえた能力なんだな〜。。。
というわけで、何故かジョジョの話になってしまった今日の感想。
ジョジョを知らない人が何かしらの経緯で今回の感想を読んでいたとしたら、「何だこれは?」という感じになってしまうはずで。
そこに関しては本当に申し訳ない気持ちで一杯なのでした。
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