“非日常”という日常。 映画『モンスターズ / 地球外生命体』ネタバレ感想

モンスターズ / 地球外生命体 [DVD]

『死ぬまでに観たい映画1001本』という本に掲載されている映画を、死ぬ前に全部観てみる!というまったりとした目標を掲げて映画を観ています。
今回は、その中から『モンスターズ/地球外生命体』。

制作費が1万5000ドル(約120万円)と超低予算映画ながら、低予算映画の代名詞的な「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「パラノーマル・アクティビティ」なんかと比べると、映画としてかなりしっかり作り込まれている印象を受ける本作。
実際、本作の監督であるギャレス・エドワーズは、この映画の評価によってハリウッド版ゴジラの次回作を任されることが決まったらしいんですが、その高評価も納得の作品でした。
ただまあ、肝心の「ハリウッド版ゴジラの続報」は、全然入ってこないんですけどね。。。

作品概要

2010/イギリス 上映時間:94分 G
原題:Monsters
配給:クロックワークス
監督:ギャレス・エドワーズ
出演:スクート・マクネイリー、ホイットニー・エイブル

<あらすじ>
地球外生命体のサンプルを採取したNASAの探査機が、大気圏突入時にメキシコ上空で大破。その直後から謎の生物が増殖し、メキシコの半分が危険地帯として隔離される。6年後、メキシコでスクープを狙うカメラマンのコールダーは、上司から現地でケガをした社長令嬢をアメリカ国境まで送り届けろとの命を受けるが……。

感想

56 100点満点 scored by ultimate-ezモンスターズ / 地球外生命体

というわけで、1万5000ドルという超低予算ということを考えると、かなりの名作である本作『モンスターズ/地球外生命体』。
何がスゴいって、(あくまで「低予算にしては」の評価にではあるものの、)130万円という予算であの“世界観”を作り込んだことがスゴい。

この手の「UFO・宇宙人モノ」(厳密には宇宙“人”ではないので「モンスター映画」というべきかも)の映画の見どころって、普通は「モンスターが人を襲う」場面
でも、本作ではモンスターがほとんど登場しないうえに、現れたと思っても画面内に映るのはほんの一瞬。
さらに、現れるのは決まって夜なのでよく見えなくて、モンスターの姿形はほとんど把握できません。

CGをバリバリ使う必要のあるモンスターを登場させないというアプローチは「低予算」ゆえの苦肉の策にも思えるし、全編を通してコールダーとサマンサの2人が廃墟と化したメキシコを歩くだけというのは、ロードムービーとしてもかなり単調。
『モンスターズ』というタイトルに反して、かなり地味な映画なのも事実です。

ただ、「モンスター」の姿をほとんど見せないことで、逆に「モンスターが当たり前に存在している世界の日常」を感じさせる作品になっていて。
そして、これは完全に僕の好みなんですが、「今、生きている世界とは違う世界の中での”当たり前”」、つまりは「“非日常”の世界における“日常”」を描いた作品っていうのが僕は大好きなんですよ!

「日常の中の非日常(現実世界で起こる変なこと)」と同じように、「非日常の世界の日常(非現実世界で起こる普通のこと)」がエンターテイメントとして成立するということは、ラーメンズ・小林賢太郎の言葉で、彼のインタビュー記事を読んで気づかされたことなんですが、それ以来、この「非日常の日常」を描いた作品は僕のツボなんですよ。

本作はまさに、この「非日常の日常」一発勝負にかけた作品。
SF映画の最大の見所であるべき「モンスター襲来」や「モンスター退治」のシーンは無く、大きな見所は皆無といってもいい映画なんだけど、「会話の端々」から、そして「看板」や「ニュース」といった細部から、“世界観”がこぼれ出しているかのようなリアリティで「モンスター」の存在を印象づけているのが見事です。(予算の都合で派手なシーンを作れなかったってのが実情なんだろうけど)

さらに、本作の主人公は脅威から逃げることしかできない“無力な普通の人”なんですが、それが成立するのもこの世界観があってこそ。
そこが巧くなかった『宇宙戦争(トム・クルーズ版)』は、“普通の人”を何故か特別扱いする宇宙人たちが、主人公が逃げ回っているうちにいつのまにか死んでいた。。。という謎のオチが付いてしまっていました。
一方本作は、あくまで“あの世界観”においての「日常」、言うなれば「モンスターが存在する世界の“特別ではないある一瞬”」を描いていて。
そのため、物語としてオチを付ける必要がない点もうまいことやるな!という感じです。

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そして、この手のSF映画は、何と言っても「ストーリーの裏側に隠された意図(寓意)」こそが醍醐味だったりするんだけど、その点でも本作は高水準。

本作の寓意は、端的に言うと「世界の警察『アメリカ』様による人類のための空爆こそが、モンスター以上に現地の人の生活を苦しめている」ということで、「モンスター=テロリスト」と捉えると、必然的に中東あたりの国のことが思い起こされます。
さらに、メキシコを通るときにガスマスクが必要なのはアメリカ軍による生物兵器の使用を示唆しているし、そもそもNASAの失態によってモンスターが野に放たれたのに、自衛のための城壁はしっかり作ってしまうアメリカ様。。。

寓意としてはやや安直で直球すぎる気もするけれど、「低予算だからといって、はじめからB級を目指して作られた作品」とは一線を画すような志の高さを感じます。

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さらに、2010年の公開時ではなく「今」観たことで、製作時には意図されていなかったはずのメッセージまで持ってしまっている点も無視できません。

「国内に“立ち入り禁止区域”が出来てしまう」という、それまでに想像し得なかった事態は、僕たち日本人が直面している現実と非常に通じるものがあります。
さらに、「地球外生命体を回収して帰還中のNASAの探査機が、メキシコ上空で爆発。モンスターが野生化したため、アメリカとの国境に高い城壁を建設してメキシコを隔離→しかし、モンスターは城壁内に侵入しており、安全地帯は実は安全地帯ではなかった」という本作の世界観。
これは、“人為的ミスにより野に放たれ”、“人間の手に余るモノ”になってしまったモンスターということで。
やがて“土地ごと封鎖するしかない”状況になったが、それでも人間の生活を脅かし侵蝕して来るというストーリーは、そのまま「モンスター=原子力」と捉えるべき映画に思えて仕方ありません。

アメリカ国境間近、長大な城壁を前にコールダーが口にする「アメリカは外からだと違って見える。すぐ外から眺めているだけなのに。」というセリフ。
公開時には、“自由の国であるはずのアメリカが、外から見ると「檻の中に閉じ込められている」ように見えること”の揶揄だったであろうセリフが、今となっては「日本は外からどう見えているんだろう?」という問題提起になっているのが非常に印象的です。

また、道中でのコールダーのセリフも印象的。
「知ってるか? モンスターに殺された子供の写真は5万ドルで売れる。笑顔の子供の写真はゼロだ。だから俺は悲劇を撮る。ただ現実を記録する。生活のためだ。」
このセリフも、震災を通じた日本の報道のあり方に対するメッセージなんじゃないかと思えてきます。

この映画は震災前に製作・公開されているんだから、製作者の意図にはないメッセージを勝手に受け取っているだけなんだけど、それでも“メッセージ”を受け取らざるをえないほどに、あまりにも良くできた寓話なのでした。

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とういわけで、僕の個人的嗜好もあってかなり高評価の映画なんですが、気になる点もいろいろありまして。

まず、恋愛要素の部分は全然ピンと来ません。
ダメダメすぎるコーグナーにサマンサが惹かれた理由がイマイチ理解できないし、クラゲを見て欲情するサマンサには「え?」って感じ。
女を連れ込んだことを後々になってグズグズと言い訳するコーグナーにもゲンナリしてしまいます。

オープニングの映像がエンディングの直後であるという倒置の構造も、特に何の効果も生んでいなかったし。。。

そして何より、(これまた超個人的な趣味なんだけど)せっかくだから『クローバーフィールド/HAKAISHA』や『ミスト』程度にはモンスターの姿を見たかったなぁ~とも思ってしまいました。
映画やDVDが安くなるわけではない以上、見る側にとっては予算の多少は関係ないんだし!

そして何より、本作の公開より1年前の2009年に、低予算(と言っても本作と比べると十分に多いですが。)ながらも「物語性」「メッセージ性」そして「映像(VFX)」の面において、大作映画と比べても何ら遜色なく、SF映画史に間違いなく名を残す傑作第9地区が公開されてしまっていているわけで。
全ての面において『第9地区』の劣化版にしか思えないというのも、これまた正直な気持ちです。

前述したように、僕は「非日常の日常」を描いた作品が大好物なんですが、日常を丁寧に描いた上でさらに劇的な盛り上がりも盛り込んだ『第9地区』という作品は、やっぱりとてつもない傑作で。
あれと比べてると、さすがに本作は、ちょっと退屈すぎるかな~とも思うのでした。
ま、『第9地区』を多少劣化させたところで、全然良作なんですけどね。

とまあ、気になった点はもろもろあるものの、「低予算ながら」しっかりと芯のある作品で存在感があり、“モンスターを出さない”というアプローチに「超低予算SF」の将来性をも感じる映画だった本作。
制作者の意図にない“メッセージ性”も含めて、なかなかの傑作SF映画なのでした。

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Commentsこの記事についたコメント

1件のコメント
  • 鷺沢コウ より:

    この記事ちょっと間違ってますね。
    ”設備機材費は1万5千ドルで、製作費は50万ドル”が正解ですね。

    事実を意図して捻じ曲げようとしているわけじゃないと思いますのであまり気にしませんが。
    ただ、この映画を見ればわかる通り、ロケ地がかなり多岐に渡る上に、スタッフの人数を考えると、
    120万程度じゃ、1か月で取り切れないのが分かるかと。

    そもそもカメラのブレや、人間との合成シーンなど、グリーンバックでしか描けない部分もかなりあります。
    あの低予算と話題だったブレアウィッチですら、6万ドルかかっているんだから、
    このくらいは映画をちゃんと見てればわかると思います。

    もう少し、予算や、コストがどうかかっているか、人件費ってそんなに安くないんだよ。って事を
    理解して、映画を見ることをお勧めします。

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