息苦しさすら覚えるほどの“濃度”と“密度”。忘れがたい“濃密”映画! 『神々と男たち』ネタバレ感想

神々と男たち [DVD]

『死ぬまでに観たい映画1001本』という本に掲載されている映画を、死ぬまでに全部観てみようという壮大な計画を実行中の当ブログ。
その1001本の6本目が本作『神々と男たち』。
恥ずかしながら、『死ぬまでに観たい映画1001本』という本で見るまで、僕はこの映画の存在すら知らなかったんですが、、、。
まったく!こんな素晴らしい映画に出会えるなんて、『死ぬまでに観たい映画1001本』完全制覇なんてことを計画した過去の自分を褒め称えたい気分ですよ!

派手なシーンはほとんどなく、印象的なシーンは全て“静か”に語られるんだけど、その“静かさ”がひたすらに美しい映画で。
そして、その“美しさ”が激しく心を揺さぶる映画でした!

作品概要

2010/フランス 上映時間:123分 PG12
原題:Des Hommes Et Des Dieux
配給:マジックアワー、IMJエンタテインメント
監督:グザビエ・ボーボワ
出演:ランベール・ウィルソン、マイケル・ロンズデール、オリビエ・ラブルダン

<あらすじ>
1996年のアルジェリアで、7人のフランス人修道士がイスラム原理主義者とみられる武装グループにより誘拐・殺害された実在の事件を題材にしたヒューマンドラマ。
アルジェリア山間部にたたずむ僧院で、フランス人修道士たちは地元のイスラム教徒たちと宗派を越えた交流をしながら、平穏な毎日をおくっていた。しかし、アルジェリア軍と原理主義者による内戦が激化したことから、彼らの周囲にも暴力の影が忍び寄り始める。

感想

83 100点満点 scored by ultimate-ez神々と男たち

さて、そんなわけで一見地味な映画ながらも非常に美しい映画で、第63回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞作ということで、文句なしの超ド真ん中の名画だった本作『神々と男たち』。
なんだけど、僕にとっては存在すら知らない映画だったわけで。
もちろんあらすじすら知らずに観たわけなんだけど、この映画は「実話」を元に作られた映画でした。

映画の元になった事件は、1996年のアルジェリアで起きた、原理主義者によるフランス人修道士誘拐・殺人事件という、残酷で衝撃的で恐ろしくヘビーな実話です。

お恥ずかし話ですが、僕は「歴史」「宗教」といった話題にめっぽう疎く、『フランス人修道士誘拐事件』については、映画を観終えた後にネットで調べた程度の知識しか持っていないんですが、「修道士7人は誘拐された後、全員首を切断されて殺された」という強烈なエピソードがあったり、「アルジェリア軍とイスラム原理主義者の内戦の中で、原理主義者により殺害されたとされているけれど、実は修道士たちはアルジェリア軍に殺された」なんていう陰謀説も出回っている様子。
そんな感じで、そもそも「事件の真相はまだわかっていない」状況で、いまだに事件に関する新たな証言が報道されることもあるようで。
何にせよ、事件から15年以上が経っている今でも議論が絶えない非常にセンシティブな出来事が、この「フランス人修道士誘拐事件」のようです。

また、「アルジェリア」という舞台についても、僕の知識はほぼゼロに近い状況でして。
「アルジェリア」がフランスの植民地から独立を果たした国だってことはぼんやり知っているんですが、肝心なところのニュアンスはおそらく全然わかっていないんでしょう。
例えば、アルジェリアの知事が「フランスの植民地政策」について愚痴るシーンから示唆される、元・本国「フランス」との関係性。
教会に乱入してきた過激派に対し修道士が語る、コーランの引用が示す「キリスト教」と「イスラム教」の関係性。
このあたりが事件の背景にある要素だってことはわかりつつも、日本人の僕にとってはなかなかつかみにくく、難解で複雑に感じてしまう部分です。

まあ言ってしまえば、「歴史」も「宗教」もよくわかっていない僕にとっては、結局のところ「フランス人修道士誘拐事件」なる事件のことはよくわかっていないんでしょう。
ただ、こういう「事件」が過去に起こり、今なお世界のどこかでは「事件」が起きているという気づきを得たという意味では、間違いなく観てよかった映画でした!

ちなみに、こうやって、映画の元になった事件の「背景」を調べていくほどに、「やっぱり素晴らしい映画だった!」という想いがどんどんと積み上がっていき、感動が倍増していくのもこの映画の魅力の一つ。
これが映画の“深み”ってものなんだろうなぁ。

事件について知れば知るほどに、“あの結末”へ向かう、何気ない日常のシーンが愛おしくて。
事件について知れば知るほどに、“あの決断”の気高さがガツンと胸に響きます。

う〜ん。こういう映画がいつまでも心のなかに残り続ける映画なんですよ!!

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というわけで、背景を100%理解していればもっと楽しめる映画だとは思いつつも、一部ずつでも事件の背景を知っていくほどに、“深み”がにじみ出てくるような映画だった本作。

まあ本来であれば、この映画を観る多くの人が「フランス人修道士誘拐事件」のことを知っているはずで、初見の時点で「日常シーンの愛おしさ(かけがえのなさ)」「修道士たちの決断の気高さ」に感動できたはずで。
そういう意味では、映画を観た後で「そういうことだったのか!」と振り返りながら感動して知る僕の見方は、この映画の正しい見方ではないのかもしれません。

でも、映画って「その映画のことを思い出す度に、どんどん好きになっていく」っていう性質があるんじゃないかと思うんですよ。
そういう意味では、「映画を観たことで事件を知る→事件を詳しく知ることで映画のことを思い出す」というサイクルを繰り返すと、映画への愛っていうのはどんどん増していくわけです。
題材になっている「事件」を知らずに本作を観たからこそ、「事件」のことを調べて。
調べたからこそ、この映画のことを何度も思い出して。
何度も思い出したからこそ、この映画のあらゆるシーンが僕の中ですごく印象的になったわけで。
結果的に、こんなにも心に残る映画になったと言えるのかもしれません。

そんなことを考えながら、これまで観た映画を振り返ってみると、「観る前に予備知識を入れずに観た映画」ほど、後に「大好きな映画」になることが多いような気がしてきまして。
結局、「初見でよくわからなかったから後から調べてみる→その映画のことを何度も思い返すことになる」というサイクルこそが、映画を大好きになる仕組みなんじゃないじゃないかとすら思ってしまいます。

僕も30代になって、年齢を重ねるほどに保守的になるせいか、「つまらないものを見て時間を無駄にしたくない!」ってことで、映画を観る前に下調べをしてしまうことが多いんですが、本当にステキな映画と出会いたければ、ヘタなことはしないで未知の映画へ飛び込むべき!
これからも、なるべくそういう出会いを増やしていきたいもんです。

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さて、だいぶ話がそれてしまいましたが、『神々と男たち』の感想に話を戻します。

本作は実話ベースということもあり、序盤~中盤は劇的なことはほとんど起こらず、フランスからアルジェリアに派遣された修道士たちの日常が淡々と描かれます。
「日常」「淡々と」と書くと退屈そうな映画っぽいですが、本作は全然そんなことはなくて。
「何も起こらない日常」の描き方がとても魅力的なんですよ。
この魅力っていうのは、きっと、ほぼ無宗教で戦争を知らない日本人の僕にとって、修道士の生活があまりに非日常的だからこそ感じられる魅力なんでしょう。
これは、物語を作る上でのセオリーの一つなんだとは思いますが、「非日常の世界」における「日常」はおもしろいもので。
「自給自足をしながら定時が来たら歌を歌う」というおっさんたちの不思議な生活のディテールがいちいち魅力的!

映画というのは「動画」、つまり「動く画」なので、「動きのあるシーン(アクションシーン)」こそが“映画”における“映像表現”としての最良の表現に思えるけれど、不思議なもので動きの無い“話し合い”のシーンがすごくエキサイティングなシーンに見えるんですよ!
まあ、考えてみれば「法廷モノ」の映画が繰り返し作られているし、「潜水艦モノ」などの閉ざされた空間を舞台に登場人物の会話主体で進行する映画が数多く存在するわけで、「動きの少ない(もしくは、動きのない)シーン」と「映画」って相性がいいんだな〜ということを再確認させられました。

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また、本作の主題は物語の終盤に行われる“ある『決断』”なんですが、この「決断」に至る過程が、これまた魅力的。
映像として派手な部分はまったく無いんだけど、繰り返し“話し合い”を続けるだけの映像から、何故か目が離せません。

本作では、本国フランスからの帰還命令が下った修道士たちが、「命令に従いフランスへ帰還する(=近隣住人たちを見捨てて自分たちだけが助かる)」べきか、「アルジェリアに留まり、近隣住人たちのために祈りを捧げ続ける(=戦争に巻き込まれて死ぬ可能性が高い)」べきかをの議論をひたすら繰り返し議論し続けます。

結局、紆余曲折を経ながらも、修道士たちの全員一致の決断として、「人間としての尊厳」と「修道士としての使命」に殉じる道、つまり「留まる」ことを選ぶ修道士たち。
しかし、そんな彼らのもとに原理主義者の一行が現われ、拉致・連行という最悪の結末を迎えることになります。
雪の降りしきる山道の中、連行されていく修道士たちと連行していく原理主義者たち。
無言の彼らを映した長回しの映像で、映画は終わりを迎えます。

一行がフレームアウトし、最後の最後に映される「画」は、ただ雪が振り続けるだけの映像。
ヒラヒラと雪がちらついているとはいえ、ほとんど「静止画」に近い一コマなんですが、その静止画が“極めて印象的な映画の一コマ”になってしまうんだから、改めて「映画って奥が深いよな~」と思うのでした。

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もう一点、この映画の印象的なシーンが、“最後の選択”を終えた後の食事のシーン。

おそらく、このシーンだけは実話そのままではなく、映画化の際の脚色なんじゃないかと思っているんですが、修道士たちが食事の際に「チャイコフスキーの『白鳥の湖』のレコードを流す」という行動をとるんですよ。
「白鳥の湖」の旋律の美しさもさることながら、「王子とオデットが湖に身を投げ、来性で結ばれる」という曲の内容の悲劇性が、これから起こる悲劇を予感させる危うい美しさを生み出しているようにも感じられます。

映画を構成する重要な要素の一つに「音楽」があるなんて今更言うまでもないことですが、改めて、映画における「音楽」の力の重要さを思い知らされました。

そして最後にもう一点。
中盤あたりで修道士メンバー全員で写真を撮るシーンがあるんですが、このシーンにどういう意味があるのかがイマイチわかりませんでした。
ただ、これも後々調べてみると、実在する修道士たちの集合写真を再現したシーンのようです。
おそらく、繰り返し報道された「事件」を象徴するような写真なんでしょう。
つまり、この「写真」を見ることが「フランス人修道士誘拐・殺人事件」という悲劇の象徴でもあるわけです。

つまり、“あの写真を撮る”というシーンこそが、何気ない日常の一コマに見えて、実は何よりも「後の悲劇」を連想させるシーンなわけで。
今となっては、この映画に無くてはならない非常に重要なシーンだと思えるのでした。

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というわけで、静かで重く、見終わった後にも息苦しさを引きずるような映画『神々と男たち』。

なかなか気楽に観ることが出来るような映画ではなかったけれど、「美しい画」としての魅力、音楽による脚色の魅力、実話であるが故のエピソードの魅力など、映画を魅力的にする“要素”がふんだんに用いられていて、映画としての魅力の密度がとてつもなく高い作品でした。

内容的にも演出的にも重い映画のため、とても一つの映画を観ただけとは思えないほどの疲労感を覚える映画ではあるんだけど、濃密で息苦しい映画だからこそ、きっと「忘れられない映画」になるんでしょう。
なかなか抜け出せないほど気分が落ちる映画ではあるものの、「この映画に出会えてよかった。」そう思える映画なのでした。

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