『映画』って、これでいい! 『ブラック・スワン』ネタバレ感想

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「映画通ぶりたい!」というひどく不順な動機から、『死ぬまでに観たい映画1001本』という本で取り上げられている映画を順番に観ている今日このごろ。
その5作品目、『ブラック・スワン』を観てみました。
『死ぬまでに観たい映画1001本』という本の表紙にもなっているこの映画は、いうなれば『死ぬまでに観たい映画』の“顔”
どんだけスゴい映画なんだろう、と期待値は上がります。

ただ、正直なところ、予告編を見ていればどんな内容かはある程度想像がつく映画で。
「役に取り込まれていく女優」を描いていて、「美しく狂っていく女の悲劇」的なものをみせる映画なんだろうと思っていたわけですが・・・。

いやいや、思っていたのとぜんぜん違う映画でした

もちろん、「役に取り込まれていく女優」を描いた映画っていうのはその通りで、ナタリー・ポートマン演じるニナは、“黒鳥”に飲み込まれて美しく狂っていくわけで。ニナに感情移入して観た人であれば、心底ゾッとする映画なのかもしれません。

ただ、ニナを追い詰めていく“狂気“、そしてニナ自身の”狂い”を表現する演出はがかなりぶっ飛んでいて。
普通、こういう“狂い”を映像化するとすれば、そこは“繊細さ”を突き詰めそうなところを、本作ではむしろド派手な映像によって表現しているんですよ。それこそ、ホラー映画的な。

こういうホラー映画の映像表現が大好きな僕としては、ニナが追い込まれ、狂っていくシーンがことごとく楽しかったわけで。
『ブラック・スワン』好きの人からするとかなり悪趣味な感想に思えるかもしれないんですが、僕にとっての『ブラック・スワン』は本当にテンション上がる楽しい映画でした。

作品概要

2010/アメリカ 上映時間:108分 R15+
原題:Black Swan
配給:20世紀フォックス映画
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ナタリー・ポートマン、バンサン・カッセル、ミラ・クニス

<あらすじ>
ニューヨークのバレエ団に所属するニナ(ポートマン)は、元バレリーナの母とともに、その人生のすべてをダンスに注ぎ込むように生きていた。そんなニナに「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが巡ってくるが、新人ダンサーのリリー(クニス)が現れ、ニナのライバルとなる。役を争いながらも友情を育む2人だったが、やがてニナは自らの心の闇にのみ込まれていく。

感想

87 100点満点 scored by ultimate-ezブラック・スワン

というわけで、思っていたのとは全然違う映画だった『ブラック・スワン』。

一言で言えば、「過保護で過干渉の母親からの抑圧」、「プリマを演じる重圧」、「外見も中身も自分と正反対のライバルの出現」により、<現実>と<妄想>の境を失っていくバレリーナ・ニナの“精神状態”を、そっくりそのまま映像化している作品で。
もちろん、真に迫るような“精神的エグさ”を持った映画ではあるものの、冒頭でも書いたとおり、やたらと“ホラー映画っぽい”演出が随所に光る映画でした。

ニナが、“黒鳥”を演じるため今までの自分の『殻』を破ろうと「自慰行為」をするシーンの妙にエロいシーンから、自慰に没頭していたら「目の前に母親が!!!」という「“エロ”⇛“脅かし”」の流れはまさにホラーの鉄板の方程式。
この辺りから徐々に、「あれ〜、この映画、なんか変だな〜、おかしいな〜(稲川淳二風)」という思いがフツフツと沸き上がってくるわけです。

そこから、ニナはどんどん妄想に取り込まれていくわけですが、その描写は「すれ違った人が『自分』だった!」というソフトなものに始まり、「鏡の中の自分が、本当の自分と違う動きをする」とか「部屋に飾ってある絵画が動く」と、少しづつエスカレート。
「おわかりいただけただろうか?」と『ほんとにあった!呪いのビデオ』風のコメントを入れたくなるような、いい感じの“恐怖映像”が続くわけです。

さらに、体から“羽毛”が飛び出したり、全身を鳥肌が覆ったり、肩甲骨が変形したりと、物理的に“鳥化”していくニナ。
精神状態の機微を描く繊細さはまったく無く、とにかく意表をつくような映像表現でもって勝負している辺りが最高です!

さらに、”傷口”の見せ方で嫌〜な痛みを想像させながら緊張感を高めつつ、その緊張感のピークでニナの足がゴキッっと“逆関節”化!
“鳥化”の末期症状ってことなんでしょうか、ついにはニナの足が“鳥足”になってしまうわけです。

その後、一度はレズったはずのライバル・リリーに首を締められて殺されそうになるも、モードチェンジ“鳥化”!
グイ〜っと首を伸ばして脱出!
リリーを返り討ちにしたニナは舞台へ上がり、全身全霊で黒鳥を演じるわけですが、ついに、舞台の上で“鳥化”の最終形態『黒鳥』へと変身。
両手は完全に“黒き翼”へと変形し、バッサバッサと舞い踊ります。

いやいや、そりゃあもう僕のテンションは「わ~い!なんだこれ~!!」ですよ!

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というわけで、それこそ『オペラ座の怪人』的な“芸術のために悪魔に魂を売る・売らない”がテーマのアカデミックでお堅い映画と思っていたら、実は“トンデモ描写”が満載のイケイケで楽しいホラー映画だった本作。

そんな本作の一番素晴らしいポイントは、予告編だけでは「イケイケで楽しいホラー映画」に見えないところ。
あの予告編があったからこそ、緊張感を持って観ることが出来たわけで。
その緊張感があったからこそ、まさかの「ぶっ飛びホラー演出」で、心底驚くことができたわけで。

昨今の映画の予告編は“ネタバレ”しまくっているものが多くてイラっとすることが少なくない中、“イケイケで楽しいホラー映画”であることを完全に隠しきっていた本作の予告編は非常に親切!
そして、そういう意味で言うと、僕が今書いているこの感想は非常に不親切!ゴメンナサイ!

実は本作の予告編を最初に観た時、「“鳥化”のシーンを見せてしまっているのはどうなの?ものっすごいネタバレしてないか、これ?」なんてことを思ってしまって。
事実、あそこまで見せちゃうのはネタバレ甚だしいんですが、本作に関しては映画の根底に流れる“テイスト”を隠し切っている点を高く評価したい!
一番の肝を隠し切っているからこそ、劇場公開から2年ほど経って、Blu-rayも旧作になっているこのタイミングであっても、「お堅い映画と思ったら、実はこんなに楽しい映画だったのか!ヒャッホーイ!」と思えるわけですから!

うーん。
結局この映画って、「映画はエンターテイメントなんだから肩肘張って見るな!楽しめ!」ってことを言っている映画なんだと思うんですよ。

しかも、その主張をするために、“トンデモ演出”を全力で真剣で丁寧にやっているわけで。
その点が、おなじく”トンデモホラー映画”であっても、『ラバー』なんていう作品とは決定的に違うんですよ。

映画って「監督の主張」が重要なのはもちろんなんだけど、「観客へのサービス精神」をきちんと持っている映画って、すごく観やすくて、すごく楽しいわけです。
それって本当に当たり前の話なんだけど、『ラバー』というヒドい作品を観てしまっていたせいか、本作『ブラック・スワン』のサービス精神の素晴らしさに、すごくハッとさせられてしまいました。

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さらに本作が素晴らしいのが、役者陣の存在感。

本作の監督ダーレン・アロノフスキーは、『レスラー』の監督でもあるけれど、2つの作品の共通点として、今、この役者だからこそのキャスティングってのがあります。
一番わかりやすい例は、『レスラー』のミッキー・ローク。
あの映画は、あのタイミングでミッキー・ロークが演じることによる説得力がすさまじく、その説得力によって傑作になった作品だと思っています。

そして、本作で言うと、まずは主役のナタリー・ポートマンがスゴい!
彼女はまさに「白鳥」のイメージで、“悪女”とか“エロ”のイメージが全然無い女優さん。
”黒鳥”を演じられない苦悩。そして、追い詰められていくニナの繊細で壊れやすそうな美しさが内面から表現されているように感じるのは、まさに“今”のナタリー・ポートマンが演じたことによる効果なんでしょう。

さらにスゴイのが、ウィノナ・ライダー
超可愛くて、超人気者だったのに“万引き”なんかで逮捕されるというウィノナ・ライダーの経歴が、落ちぶれたクイーンであるベスという役にハマりまくっています。
妄想の中とはいえ自分の顔面を爪ヤスリで突きまくるシーンの狂気っぷりや、惨めな状況に追い込まれてもプライドを捨てない“みっともなく気高い”感じなど、これまた“今”のウィノナ・ライダーが演じるからこその絶品の演技でした。

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そして、全編を通してどこからどこまでが現実で、どこからどこまでが妄想だったのかがわからないという点が、これまた本作の独特な味わいを生んでいて。

本作の終盤は、“壊れてしまったニナ”の完全なる“主観”を映像化しているわけなんだけど、そもそも、人っていうのは主観でしか物事を見れないわけで。
「今の自分が本当に狂っていないかどうかなんて、自分では判別のしようがないんだよなー」なんてことを、改めて突きつけられたような気分になってしまいました。

あのラストシーンは、ニナが“死”をもって“完璧”な演技を見出したことを示唆しているわけですが、それは客観的にみると全くまともじゃないもの。
ただ、「今の自分のあらゆる行動や思想は客観的に見るとどうなんだろうか」なんて考えだすと、自分が生きている世界すら、ニナの視界と同じくらい不確かなものに思えてきてしまって。。。
ニナが狂っていくさまを楽しく鑑賞していたはずが、実は自分だって一歩間違えば“そちら側”に転がり落ちるかも知れないってことに、恐怖すら感じてしまいました。

そして、人は絶対的に“主観”というフィルター越しにしか世界と関われない(そのフィルターがどんなに狂っていても。)という事実に、圧倒的な孤独感すら覚えてしまう映画でもあるのでした。

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というわけで、本作『ブラック・スワン』。
ニナの“鳥化”に笑って驚き、繰り返す狂気に恐怖も覚える。エンターテイメント映画として非常に上質で、映画としてこの上なく“楽しい”作品。
想像していた映画とは全然違ったけど、まったくもって“いい意味”で予想を裏切り続ける映画でした。

なんだかんだ小難しい映画も観てきたし、そういう映画も嫌いじゃないけど、「なんで映画が好きなの?」って問われたら、やっぱり「映画って、本当に楽しいものだから!」っていうのが一番プリミティブな気持ちなわけで。
毎日毎日、こんなに長々と駄文を書き綴っておいてなんですが、「ガタガタ言わずに、黙って楽しむ」ってのが、本当の映画の楽しみ方なんじゃないかとも思うわけで。

本作『ブラック・スワン』という「ただただ楽しい映画」は、「映画が好き」という気持ちの本質に立ち返らせてくれる素敵な映画なのでした。
う〜ん、「映画」って、これでいい!

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