“正しい生き方”へ。男の人生が今、胴体着陸。 映画『フライト』ネタバレ感想

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アカデミー賞受賞作の公開ラッシュが続く中、「もろもろ受賞を逃した作品なら劇場空いてそう」というものすごくいい加減な理由で『フライト』を観てきました。

感想を一言で言うと「思ってたんと違う!!」

予告編でのジャンボジェット機背面飛行の映像的インパクトに惹かれ、あえて前情報を全く入れずに観に行ったんですが、当然「飛行機の墜落シーンを主軸においたパニック映画」みたいなものを期待していたわけですよ。
もちろん、予告編で語られている程度の情報である「事故後、機長の体内からアルコールが検出する」ってことや、キャッチコピーの「彼は英雄<ヒーロー>か犯罪者か」が醸し出す雰囲気は知っていて。
じゃあ、“機長が誰かしらから嵌められる”というサスペンス要素があるのかな?それとも、“アルコールに過剰反応するアメリカ社会への風刺・問題提起”的なアプローチなのかな?なんてことは考えていたものの、オープニングから5秒ほどで「へ?」となる意外性のある映画でした。

また、完成度は高い脚本ながら、同様の題材の映画に比べれば「生ぬるい」し、「ベタ過ぎ」
ロバート・ゼメキス監督の13年ぶりの実写映画っていくことで期待値を上げすぎていたのかもしれませんが、正直、ちょっとだけ「期待はずれ」という言葉が頭をよぎります。
ただ、なんだかんだでデンゼル・ワシントンが画面にいる時の“安心感”“名画感”はハンパではなくて。
主演が別の人だったらきっと完全に”微妙な映画”になっていたところを、かろうじて「いい映画だった」という所に着地させるデンゼル・ワシントン力の凄さを感じる映画でもありました。

作品概要

2012/アメリカ 上映時間:138分 PG12
原題:Flight
配給:パラマウント
監督:ロバート・ゼメキス
出演:デンゼル・ワシントン、ドン・チードル、ケリー・ライリー

<あらすじ>
フロリダ州オーランド発、アトランタ行きの旅客機が飛行中に原因不明のトラブルに見舞われ、高度3万フィートから急降下を始める。機長のウィトカーはとっさの判断で奇跡的な緊急着陸に成功。多くの人命を救い、一夜にして国民的英雄となる。しかし、ウィトカーの血液中からアルコールが検出されたことから、ある疑惑が浮上し……。

感想

63 100点満点 scored by ultimate-ezフライト

というわけで、“期待していただけに”、やや期待はずれだっった本作、『フライト』。

冒頭でも書いたとおり、思っていたのとは全然違う内容の映画だったわけですが、僕が想像していた『フライト』は“飛行機墜落“パニック映画で。具体的に言えば『ファイナル・デスティネーション』級の“飛行機事故”が見れるのかな〜なんて思っていたわけです。
しかも監督はロバート・ゼメキス。
「VFX=ド派手な映像演出」という僕の概念をぶち壊した『フォレスト・ガンプ 一期一会』での”さりげなくて地味で、でも絶対に必要なVFX”を作り出した、あのロバート・ゼメキスなわけです。

僕は『ファイナル・デスティネーション』を観てしまって以降、帰省の際に極力飛行機を使わないようにしているくらいあの映画がトラウマで。
だけど、クリエイティビティあふれるあの映画が大好きなんですよ!

『フライト』の予告編で流れる映像は、『ファイナル・デスティネーション』を超えるような”飛行機トラウマ映画”を予感させるには十分な出来で。
当然、そこを期待していたわけなんですが、、、

この映画、実は「飛行機墜落」をメインにおいた映画ではないんですよ。
138分とやや長めの尺の映画の中で、問題の墜落シーンは最初の30〜40分くらいの出来事で。
むしろ墜落“後”の話こそが主題の映画でした。

映画開始5秒ほどで画面にドカーンと「おっぱい」が映しだされて、アルコールとタバコに包まれたウィトカー(デンゼル・ワシントン)の姿にまずは驚愕。
(ちなみに僕の後ろの席で小4くらいの子どもと父親が観に来ていたんですが、お父さんの“息を飲む音”が聞こえました。。。)
その後も、電話がなったかと思えば元妻からの金の催促でイライラ。昨夜の酒が残りまくっているのもあって最悪のコンディションなんですが、そこは朝一のコカインでシャキッと引き締めてから出発。
さらに、砂糖入れまくりのコーヒーとアスピリンを打ち込んでからの離陸。
水平飛行に入った後には、さらに機内でこっそりアルコール摂取。
その後、自動操縦の間はコクピットで爆睡。
予告編から想定していた<正義>の意味を問うキャラクターではなく、ウィトカーめっちゃダメな奴やないか〜い!!

こういう「掟破り」なキャラクターだからこそ、問題の飛行機事故の最中、ジャンボジェット機を背面飛行させるという荒業をやってのけ、結果的に102名の搭乗者中96名を救うという“英雄的活躍”が出来たという説得力はあるものの、予告編で想像していた「ウィトカーは嵌められた?」とか「嫌アルコールへの問題提起?」なんていう深読みをする余地がないほどに、ウィトカーがダメでしょ、これは!

そうなんです。この映画、実はアルコールやらドラッグやらの「依存症」という社会問題を扱った映画なんですよ。
墜落していくのは、飛行機だけではなく、アルコール依存でやらかしまくってボロッボロのウィトカーという男の人生そのもの。
ただ、墜落しかけた人生が最後の最後、“「正しい生き方」へと胴体着陸を果たす”というところにグッと来る映画でした。

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というわけで、実は「アル中男の再生」を描いた映画だった『フライト』。

墜落以降のあらすじをざっくりと書くと、病院で目覚めたウィトカーは墜落事故で乗客4名搭乗員2名の死者を出したことを聞かされ、搭乗員のうちの一人がカトリーナ(冒頭で一夜を共にしていた彼女)であることを聞かされます。
そして、さらに、目を覚ます前に受けていた血液検査により、体内からアルコールとコカインが検出されていたことが発覚。
ただ、凄腕弁護士の力でもみ消しちゃうわけですが。

その後、入院期間中に喫煙室で知り合ったドラッグ中毒治療中のニコールと出会い恋仲になるも、アルコール依存から抜け出せないうえに自分がアル中であることを認めることすら出来ないウィトカーにイライラして関係は悪化。
ニコールとの決別でさらにイライラするウィトカーはさらにアルコールにのめり込みり、酔っ払って元妻の家に押しかけるも息子と大げんか。どうやら離婚の原因もアルコールだったようです。
その後も、アルコールでやらかしてはイライラしてさらにアルコール。
生き残った搭乗員に「自分に有利な証言をしてくれ!」とすがって困惑され、やりきれなくてアルコール。
アルコール中毒の負にスパイラルの中をグルグルしながら、クライマックスとなる「尋問」シーンへと突入します。

事故調査員たちからの「尋問」のテーマは一つ。
<事故当日は乱気流の影響で乗客へのドリンクサービスは無かったはずなのに、機内のゴミ箱からお酒の空き瓶が見つかった>ことについて。
当然、このゴミはウィトカーが飲んだお酒のビンです。

当日、ゴミ箱に近づくことが出来たのは乗務員だけで、全員の血液検査の結果、アルコールを検出されたのは2人。機長のウィトカーと、客室乗務員のカトリーナのみ。
ただし、弁護士とパイロット組合の努力によりウィトカーの血液検査の結果は無効(証拠能力なし)とされているわけで。
要は、「自分の保身のため、<死人に口なし>と死んだ元恋人に押し付けることが出来るか?」が試されるわけです。

ちなみに、「尋問」まで禁酒をしていたウィトカーは、「尋問」前夜もホテルの部屋に缶詰状態だったはずなのに、ひょんなことから酒を手にしてベロッベロのまま朝を迎え。これじゃあまずいってことで、またもやコカイン吸って頭をシャキッとさせての出陣。
最後の最後まで「ダメ人間」としてのキャラクターがブレません。

そんなこんなで、尋問の”最後の質問”を迎えるわけですが、ここは奇をてらうこと無く、ものすごーくベタな感じに、「俺が酒を飲んだ!」と宣言。
事故の直接の原因が「機体トラブル」であることが判明しているため終身刑とはならずにすんだものの、刑務所へ服役。パイロットの資格も剥奪されてしまいます。
それでも、服役し、アルコールへの依存を断ったことで、「俺は人生ではじめて、自由になった」と爽やかに語るウィトカーの姿で、本作は終わりを迎えます。

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こうやってあらすじを思い出してみると、やっぱり全体的に「ベタ」な映画で。予告編とのギャップ以上の「驚き」は無い映画でした。
ただ、デンゼル・ワシントンが「脚本に惚れた!」と宣言するだけあって、脚本の巧さは確かにスゴい作品で。

特に「巧い!」と感じたのは、ウィトカーとニコールの関係性
「ダメな男の側に献身的に寄り添う女性」って、映画においては鉄板の存在ではあるんだけど、現実的に考えるとそんな女性っていないじゃないですか。それこそ「女神」とか「天使」みたいなもんで。
ただ、本作『フライト』ではその理由がキッチリと語られているのが印象的。

ウィトカーとニコールの2人が出会ったのは病院の喫煙室。
ニコールが入院していた理由は超強力なドラッグを注射してしまい病院に担ぎ込まれていたからで、その後のエピソードから彼女がこのタイミングで依存症を克服したことがわかります。
そしておそらく、彼女が依存症を克服しようとしたきっかけは、このウィトカーとの出会いなんですよ。
ずっと孤独を感じていたニコールにとって、「俺が会いに行くよ」というウィトカーの言葉は、「自分の存在」を肯定してくれる言葉で。

さらに、喫煙所にやって来た末期がん患者で運命論者(死を間際に達観した感じの)の“謎の男“が語る「彼女と出会うため、あんたは助かったんだ。」という言葉が、2人の出会いの運命性を示唆していて。

要するに、中盤以降のニコールはウィトカーにとっての「女神」の役割を果たすんだけど、そのはるか以前にニコールはウィトカーによって救われていて。
そういう意味ではウィトカーこそがニコールにとっての「神」
だからこそ、ダメ人間のウィトカーに寄り添う必然性があるわけです。

これは巧い!

また、基本的に本作にはウィトカーの“敵”が存在しないというのも特徴的。
ただ、“敵”がいない変わりに、絶対的な“味方”もいなくて。
ウィトカーにコカインを調達するジョン・グッドマンは親友で味方なんだけど、パイロットとしてのウィップのことは気にかけてくれないし。
昔ながらのパイロット仲間のチャーリーや弁護士のヒューは、パイロットであるウィップの味方なのは間違いないし、パイロットであるウィップを救うことに全身全霊をかけてくれるものの、彼がアル中であることもヤク中であることも「どうでもいい」と思っているわけで。
そんな中、ニコールだけが人間・ウィトカーを全面的に味方してくれるわけですよ。

という感じで、2時間かけてジワジワと2人の関係性を浮かび上がらせてくる本作の脚本は、確かに素晴らしいものがありました。

さらに、「尋問」でのウィトカーの行動は、上で挙げたチャーリーやヒューの努力を台無しにする決断でもあったわけですが、チャーリーやヒュー的な「組織側」の人間って映画では悪役として描かれることが多い役どころで。
最後に主人公が取る“勇気ある決断”の結果によって彼らの身に起こることって、顧みられないことが多かったりするもの。
でも、服役中のウィトカーのセリフの中に、彼らの行動を台無しにしてしまったことを詫びる言葉があって。
決して派手な映画ではないものの、こういう小さくて地味なところが、人間同士の生々しい関係性というリアリティーを生んでいるんだと思います。

また、脚本に関して言えば「好き」なところがもう一つありまして。
ただ、その「好き」なところが、日本語字幕のせいで台無しになっているんですよ!

本作ではウィトカーと離婚した奥さんと暮らしている息子のトレヴァーとの関係性も重要なポイントで、昨年末に息子ができた僕としても、かなり心を動かされるポイントでして。
二人が会うシーンは作中に二度あって、一度目は酔っ払ってベロベロの状態のウィトカーが元妻の家を尋ねるシーンで、二度目は服役中のウィトカーをトレヴァーが訪ねてくるラストシーン。

最初の出会いでは、酔っ払って抱きつこうとするウィトカーに対し、「なんなんだよ!」「出て行け!」とトレヴァーは父を拒絶。
一方、二度目の出会いは、「僕の出会った最高の人」というタイトルのエッセイを書くために面会に来たことを告げるトレヴァー。「父さんって何者なの?」という質問をぶつけ、「良い質問だ」と返すウィトカーの微笑んだ顔がこの映画のラストカットです。

そして、この2つの“出会い”のシーンが対になっているところが、「好き」なんですよ。
ウィトカーからトレヴァーへのハグ。そして、トレヴァーからウィトカーへの「Who are You?」という言葉
同じ行動、同じ言葉が、二つのシーンで全く違う意味になっているところにグッと来るわけです。

それなのに、2つの「Who are you?」の日本語字幕がどうして違う言葉なんだ!!!

この台無し感!非常にガックリきてしまいます。
確かに同じ日本語で、この2つのニュアンスの違いを表現するのは難しいことかもしれないし、「アナタは誰ですか?」なんていう中1英語の教科書のような字幕でもつけようものなら、「はい。私はトム・ブラウンです。」なんていう中1英語の教科書のような返ししか出来ませんけどもね。。。

ただ、僕はこの手の「繰り返し」の効果が好きななもので、ここはもう少し気を使ってほしかったです。

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とまあ、(日本語字幕は置いといて)脚本については基本的には「よくできてるな〜」という印象なんですが、いくつか不満があるのも事実。

一つは、服役後のウィトカーに「俺は人生ではじめて、自由になった」という“セリフ”を言わせているところ。
もちろん、この言葉を言わせたるための映画だった面もあるんでしょうけど、ここでの「自由になった」セリフではない“何か”表現できていればな〜なんてことを思ってしまいました。
例えば『ショーシャンクの空に』なんか、あのジャケットの一枚絵だけで「自由になった」っていうイメージがガツンと伝わるわけで。
ああいう表現に比べると、本作の「自由」は、“言葉”にしている分だけ押し付けがましく感じてしまいました。

また、ウィトカーは最後に「酒は絶った。それを神に感謝するよ。俺は人生ではじめて、自由になった」と宣言しているわけですが、服役する覚悟を決めたウィトカーの”決断”って、尋問で「ウソをつかなかった」ことのはず。
でも、ウィトカーの言葉は、「嘘をつかなかった」ことが彼を救ったのではなく、「嘘をつかなかったことが原因で服役して、その結果酒を断った」ことが彼を救っているということ。

尋問での彼の“決断”こそが尊いと感じていた僕には、ちょっと飲み込みにくい論理でした。
じゃあ、事故の直後に何らかの理由で断酒できていたなら、ウィトカーはカトリーナに罪を被せたとしても「自由」になれたのか?なんて考えるのは揚げ足取りかもしれないですけども!

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というわけで、予告編から想像される「飛行機墜落パニック映画」とは全然違う映画だった『フライト』。
まあ、もちろん墜落シーンの迫力はなかなかのもので、飛行機に乗るときに思い出しそうなトラウマ映画としてもなかなかのものでした。

ただ、これまで長々と書いてきた通り、本作の主題は「アルコール中毒」問題。

正直、本作のアル中描写は割りと「ぬるめ」で、もっと激しい描写でアル中を描いた映画はいくらでもあるはずで。
さらに、最後の展開も王道ド直球というか、非常にベタな映画です。

しかし、おそらくはそれこそが「アルコール中毒」
本作の「ベタさ=あたりまえのこと」こそが、現実離れした特殊な人が患う病気ではなく、ごくごく“普通の人”を蝕む病気である「アルコール中毒」を表しているのかもしれません。

そうやって見ていくと、ウィトカーという人物も、本来はあれほどのダメ人間ではないのは明らかで。
最後に「嘘をつかない」という真面目さがあるのは間違いないし、序盤で語られていたように「あの年で過酷な近距離飛行ばかりを飛ばされる」立場の人物。
真面目に過酷な労働を続け、どんどんと疲弊していた心のスキマに、“アルコール“の魔力は忍び込んでくるんだな〜、なんてことを考えてしまいます。

そんなわけで、僕がこの映画から学んだことは、「まじめすぎてもろくな事にならん!」。そして、「『眠眠打破』とか『レッドブル』とか飲んでまで仕事したって、その先に“自由”はないぞ!」ということだったりするのでした。

Commentsこの記事についたコメント

2件のコメント
  • 名無し より:

    はじめまして。昨日見て、まったく同じ感想ですw 特に「思ってたんと違う!!」
    デンゼル・ワシントンのクズ男っぷりは吐き気がするほど素晴らしかったですねー。

    ところ、ウィップの息子の名前はトレヴァーではないと思います。
    トレヴァーはベテランCAの息子の名前。
    ウィップの息子は彼と同じ「ウィリアム」で、あだ名が「ナックルズ」でしたよね。

    • ultimate-ez より:

      あれ?トレヴァーじゃなかったでしたっけ?完全に勘違いしてたっぽいです。。。ご指摘ありがとうございます!!

      いや〜、思ってたんと違いましたよね〜。
      ただ、予告編とのギャップがありすぎるせいで、世間的には「微妙」という評判だし、僕も結構不満を書いてたりするんですが、、、そんなに悪い映画でもないですよね!

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