物語に途中参加した“脇役”の物語。 小説『アヒルと鴨のコインロッカー』(伊坂幸太郎)ネタバレ感想

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)冒頭からいきなりネガティブなことを書いてしまいますが、僕は元々「伊坂幸太郎」という作家があんまり好きじゃなかったりします。
ただ、小説って結局は「嗜好品」だと思うので、合う合わないがあるのは当然で。合わない作家の本は読まなければいいだけのこと。
というわけで、伊坂幸太郎さんの作品は避けがちだったんですが、その一方で、東西ミステリーベスト100』で紹介されているミステリー小説を全部読んでみよう!なんてこともやっていたりしてまして。

そんな中、本作『アヒルと鴨のコインロッカー』は、東西ミステリーの国内編73位の作品!
このミステリーがすごい!でも、2005年国内編の第2位!!)
伊坂幸太郎作品の中で唯一『東西ミステリー』にランクインしている作品なので、統計的に見るとこれが伊坂幸太郎のベスト作品なのかな~、ってことで読んでみることにしました。
ま、Kindleセールの対象になっていてお安く買えたっていうのもあるんですけどね!

とまあ、そんな経緯で読んでみることにしてみた本作。
「苦手」という先入観がある中で読んでしまったせいも大いにあるんでしょうけれど、やっぱり僕は伊坂さんの文体は苦手だってことを確信させられるような作品でした。
物語に対する主人公の立ち位置が非常に新鮮で、こういう切り口でミステリーを展開していくのか!という面白さがあって。
さらに、2年前と現在という二つの時間軸がキッチリと整理されていて非常に読みやすい作品で、「よくできてるな~」と思える作品ではあるんですけどね。。。

作品概要

2003/11/20 日本
著者:伊坂幸太郎
発行元:東京創元社

<あらすじ>
引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ!

感想

64 100点満点 scored by ultimate-ezアヒルと鴨のコインロッカー

A0007 000608 mというわけで、冒頭から褒めてるのかけなしてるのかが微妙な文章になってしまいましたが、そうとしかいえない作品なのでしょうがないところ。
なんというか、好きなところと嫌いなところが交じり合わずに独立して存在しているような、不思議な読後感のある作品でした。

本作の好きなところっていうのは、なんといっても主人公である椎名という人物の位置づけ
本作における椎名の立ち位置って、完全に“脇役”なんですよ。
これが、おもしろい!
「“脇役”が語り手」とか、「一般的に“脇役”になりそうな人物をフィーチャーした作品」というのであれば珍しくもないんでしょうけど、本作はさらにそこから一歩踏み込んでいて。
椎名は、「事件」と「事件の関係者」で構成されるミステリーという枠組みに対して、基本的にはまったく関係のない人なんですよ。

作中でも、椎名は“物語に途中参加した”なんて言われていますが、そんな人物を主人公に据えて、物語を成立させているというのはすごい!

僕は伊坂さんの作品をそんなに多く読んでいるわけではないんですが、複数のエピソードを並走させるのが得意な作家という印象があって。
そして、ミステリー作品によくある「複数の物語が一点に収束する」というタイプの作品ではなく、「複数の物語がさりげなく関係し合うという作風が、非常に特徴的な作家さんだと認識しています。
本作では、まさにその“作風”を生かして、本来であれば主題となるミステリーに対して、“たまたま関係してしまった男”を描くとうい切り口の作品というわけなんですよ。

正直、「ミステリーとしてどういう作品が好きか?」と言われると、僕は間違いなく「複数の物語が一点に収束する」タイプの作品の“パズルのピースがカチッとはまる感じ”が好きではあるんですが、こういう新しい切り口のミステリーとの出会いというのも間違いなく嬉しい瞬間ではあるわけで。
本作においては、この“切り口”の一点だけでも、読む価値がある一冊だったと言っても大げさではないほどでした。

 

A0001 004279 mただ、それでもやっぱり全体の印象として好きか嫌いかと言われると、やっぱりなんですが、やや「嫌い」寄りかな~という感じでして。
これはもう、「僕は伊坂幸太郎の作品があまり好きじゃない」という先入観があったことが一番の原因だったりもするのかもしれないけれど、どうしてもあの“文体”にうまくノレないんですよ。

なんて言うんでしょう、作品全体に漂う「村上春樹チルドレン」感が、どうにも苦手で。

これまた、「僕が村上春樹をあまりすきじゃない」なんてことが関係してるのかもしれないんですけど、やたらと格言めいていたり、ちょっとズレた感じの比喩表現だったりという「言い回し」や、何かと音楽を絡めるところ(村上春樹作品におけるビートルズ。本作ではボブ・ディラン)なんかが、どうにも馴染めなくて。
これはもう、作風に乗れるか乗れないかというだけの話なんでしょうけど、僕はどうにも「寒い」としか感じられないんです!

また、「ミステリーとしての切り口は最高だ!」なんてことは思いつつも、「全体の構成が上手いか?」といえばそれはまた別の話。

先述したとおり本作は、“脇役”である椎名が、すでに進行中、といよりむしろ「終わりかけている物語」に途中参加していく話。
河崎という男に誘われて、「書店を襲って、広辞苑を盗み出す」という事件に手を貸すことを発端として、椎名は“事件”の参加者になるわけです。

「広辞苑を盗む」という小さな事件は一見すると意味不明で目的を推測しにくい“事件”ではあるものの、大雑把な構成だけを見ると、これは典型的な“巻き込まれ型のサスペンス”なわけで。
そして、“巻き込まれ型のサスペンス”って、「その場にいたら俺でもそうするだろうな。」と思える選択を繰り返していくうちに、想定外の大きな事件に“巻き込まれていた”という部分に面白さがあると思うんですよ。

にも関わらず、重大事件ではないものの間違いなく“犯罪行為”である「広辞苑を盗み出す」という行動を取る椎名の心情が全然描かれていなくて。。
普通に考えれば、知り合ったばかりの隣人に「ちょっと書店襲おうぜ!」なんて誘われたら、よっぽどの理由がない限りは断るはずで。
あえてその誘いに乗るってことは、それなりの動機があるはずだと思うんですよ。
というわけで、序盤の展開で「そんなわけあるかい!」という気持ちになってしまったため、それ以降の展開にもまったくリアリティを感じられないわけで。
そんなテンションのまま“巻き込まれ型”の物語が進行しても、正直、置いてけぼり感でいっぱいでした。

さらに追い打ちを掛けるように、上述した「村上春樹的言い回し」が多用されていて。
これががまた、「こんなこと言う奴いないだろ!」と思わざるをえないような言い回しなもんで、ことごとく登場人物の“実在感”を削いでしまっているわけで。

最終的には「広辞苑強奪事件」の真意や、河崎なる人物の正体など、2年前と現在が多面的に関わりあって一つの真実が浮かび上がってくるという展開がきれいにハマるものの、結局“リアリティのある話”としてみていないせいか、「ああ、はいはい。きれいにオチましたね。」という、ものすごく冷静な見方しかできなくて。

そもそも、最後のどんでん返しがさほど意表をつくものではないというのもあるんですけど、どんでん返しにおける「そうだったのか!」という驚きって、やっぱり“登場人物への共感”あってのものなんだなーなんてことに気づかされました。

 

とうわけで、“脇役”を主役に据えるという構成を思いついた時点で発想勝ちの作品だとは思うものの、僕の個人的な嗜好からは大きく外れた感のある一冊でした。

人の死、しかも“愛する人の死”という重めの展開や、“ペットの虐待”“ペット殺し”などの残酷な描写があるにもかかわらず、全体的な読後感としては爽やかで「青春ミステリー」的な印象すら感じさせるあたり、確かな力量のある作家の作品であることは間違いないありません。
ただ、ユーモアの感性やこじゃれた言い回しがハマらないというのは、これはもう相性が悪いとしか言えません。
こういう「個人的に合わない作品」に対して感想を書くことの難しさ、それをWeb上に公開する意味なんかも考えてしまいますが、これもまあ、個人的な記録としてはアリなわけで。

そんなわけで、「なかなかおもしろかったけど、嫌い!」というまったくまとまりのない一言で、強引に今日の感想文を終えようと思うのでした。

うーむ。『このミステリーがすごい!』歴代ベスト10完全制覇のためには、伊坂幸太郎作品はあと4つもあるのか。。。

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