「なぜ人殺しを?」「そういう生き方をしようと決めたからだよ。」 小説『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』(スティーグ・ラーソン)ネタバレ感想

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版) (ハヤカワ・ミステリ文庫)世界中で売れに売れ、スウェーデンで映画化の後ハリウッドリメイクまでされた超人気小説『ミレニアム』。
文庫版の上下巻が合本でKindle化、しかもKindleセールの対象になっていたということで、改めて読んでみました。

いわゆる「ミステリー的な謎解き」を期待すると肩透かしをくらう部分もあるけれど、容赦なく詰め込まれる圧倒的な情報量に溺れる感覚が非常に心地よい一作。
「続きが気になって読む手が止まらない」という中毒性で言うと、世界中での大ヒットも納得ってもんです。
数年前に絶大なヒット作となった『ダ・ヴィンチ・コード』なんかが好きだった人には、絶対にハマる一冊なんじゃないでしょうか。

本作は、著者スティーグ・ラーソンの処女作ということで物語の展開に荒削りな部分は多いものの、ジャーナリスト出身というラーソンのジャーナリズムに対する熱意が溢れまくる本作も、読んでおくべき「アツい小説」なのな間違いありません。
そんなラーソンは、「ミレニアム」シリーズの続編にあたる2作品を残したのみで、シリーズを完結させることなく2004年に亡くなってしまっているそうで。
まだ「1」を読み終わったばかりながらも「ミレニアム」シリーズにハマってしまった僕は、「4」以降の続編が読めないってことが、本当に心から残念でなりませんよ!

作品概要

2008 スウェーデン
著者:スティーグ・ラーソン
発行元:早川書房

<あらすじ>
月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家の違法行為を暴く記事を発表した。だが名誉毀損で有罪になり、彼は『ミレニアム』から離れた。そんな折り、大企業グループの前会長ヘンリックから依頼を受ける。およそ40年前、彼の一族が住む孤島で兄の孫娘ハリエットが失踪した事件を調査してほしいというのだ。解決すれば、大物実業家を破滅させる証拠を渡すという。ミカエルは受諾し、困難な調査を開始する。

感想

89 100点満点 scored by ultimate-ezミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女

ドラゴン・タトゥーの女 ミレニアム<完全版> [DVD]というわけで、文句なく大絶賛したい小説だった『ミレニアム』。

先述の通り世界中で売れまくっている本作ですが、本国スウェーデンでの売上は特にすごく、なんとシリーズ合計290万部というとんでもない売り上げを記録しているらしい。
なんせ、スウェーデンって総人口900万人くらいの国なんだから、そこでの290万部っていうのを単純計算で日本に置き換えてみると、4126万2924部を売り上げるとんでもないベストセラーってことになるわけで。
これはもう、『もし高校野球の女子マネージャーが「ワンピース」を読んだら(村上春樹著)』くらいじゃないと届かないような売り上げ部数なわけですよ!

しかしまあ、その驚異的な売り上げ部数も納得の面白さ。
まずなにより、複雑に入り組んだ物語そのものがかなり面白い。
「40年前のハリエット失踪事件と、ヴァンゲル家のお家騒動」という本作のメインとなるお話と、並行する「ミカエルvsヴァンネルストレム(経済ジャーナリストvs極悪実業家)の情報戦」の物語。これが両方単独でも読み応え十分ながら、バランスも絶妙です。

さらに、「探偵が行く先で何故か事件が起こる」というミステリー作品がもつ“不自然さ”に対する解答として、「ジャーナリストが過去に起きた事件を解決する」という本作でのアプローチは実に自然。
これはもう、ミステリーにおける「探偵役」の設定として、現代における“正解”をを提示した作品なんじゃないかと思うほどです。

ただ、上巻の大部分をかけて説明される40年前の事件の説明がやや長く、40人近い人間が関係するうえに、スウェーデン人の名前に慣れていないせいで登場人物を把握するのはなかなか大変で。(しかも、お家騒動のため、多くの登場人物が○○・ヴァンデルと同一姓なのもなかなか大変!)
正直、序盤〜中盤は「読み進めるのがしんどい」と思う箇所も少なくはありません。

しかし、本作『ミレニアム』は典型的な「長く助走を取った方がより遠くに飛べる」型の物語。
重厚で冗長な序盤〜中盤を我慢して読み込んでおけばこそ、終盤での激アツ展開を堪能できるってもんです!

最終的なオチまでが面白いかは微妙だったりもするし、文庫の冒頭に掲載された地図(しかも、ご丁寧に島の全体図と詳細地図の2つが)を見たせいで“綾辻行人的な館モノミステリー”を期待してしまったところもあって、全くそういう類の小説ではないことに対する不満はあったりもするけれど、そんな不満も消し飛んじゃうくらいに終盤の展開はアツい!

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上そんなわけで、「ミステリー」としての終盤の盛り上がりが非常にアツい本作ですが、物語以上の本作の魅力があって。
それは、言うまでもなく、キャラクターの魅力なんですよ!
主役級のキャラクターが、どいつもこいつも生き生きしていて曲者ぞろいの奴らばっかりで。

その代表はやっぱり、作品のサブタイトルにもなっている「ドラゴン・タトゥーの女」ことリズベットでしょう。
ビジュアルも中身もかなりぶっ飛んだキャラクターで、「アンチヒーロー的なヒロイン」といった感じの設定だけでも面白いし、作中で振りかかる“ある事件”に対する報復のエピソードで、一気に心を奪われてしまいました。
この辺り、映画版でもなかなかエグく描かれていましたが、映画版よりさらに深堀りされているリズベットの人物像にハマってしまいます。

他にも、主人公ミカエルや、それを取り巻く女たちなど、みんなキャラが立っていて魅力的なんですが、その中でも僕が個人的に大好きだったのが、本作の「真犯人」であるアイツ!
事件そのものが複雑なので「真犯人」という表現が適切ともいえないんですが、アイツ!!
さすがに「真犯人」の正体についてのネタバレは避けておきますが、魅力的な「悪」を具現化させている作品はやっぱり大好き!

特に、

「なぜ人殺しを?」
「そういう生き方をしようと決めたからだよ。」
―― 下巻 P.272

という、どこか吉良吉影(もっともカッコイイ殺人鬼)を思い出させるようなセリフに、心底痺れてしまいました。

唯一、不満があるとすれば「真犯人」が歪んだ理由を描いてしまっていること。
「犯人もまた被害者。」的な設定は、せっかくの魅力的な「悪」を小物に見せてしまう展開で。
本作の“アイツ”は、まっとうな両親の元で生まれ、まっとうな環境で育ったのに生まれてしまった「悪」であってほしかった。
そういう資質を感じる「悪」だったんだけどなぁ。。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下というわけで、タイトル通りに「1000年に一度の名作」とまではいかなかったものの、骨太であらゆる魅力が詰まりまくった小説だった『ミレニアム』。
古典ではなく、自分の世代に出版されたリアルタイムの小説の中に、こういう水準の小説が生まれてくることは喜び以外の何者でもありません。

とはいえ、スウェーデンというあまり馴染みがない場所が舞台の物語であることに加え、少なくとも僕は「キリスト教的な宗教観」と「ヨーロッパにおける人種差別」についての知識が足りず、犯人の動機やヴァンゲル家の因縁について理解出来ない部分があったのも事実。
そういう意味では、これほど魅力的な小説の魅力を100%堪能できたとは、到底言えないわけです。

「東西ミステリーベスト100」なんていう本をチェックしているせいか、個人的な海外文学ブームが来ている気がする昨今。
「海外ミステリーをより楽しむために、ひとつ世界史でも勉強しようかな!」という具合に、知識欲が高まる作品でもあるので、そういう意味でも、読んで損はしない傑作ミステリーなのでした。

余談

誰が言い出した話かしらないけれど、「スウェーデン=フリーセックスの国」というイメージがありまして。
さすがに『フリー』ってことはないだろうと思っていたんだけど、、、

本作を読む限り、想像以上に『フリー』なんスね。。。
単に、主人公のミカエルがそういうヤツなんだってことなのかもしれないけど!

そういうわけで、「物語そのものの面白さ」+「『フリー』が真実なのか否か」が気になって、眠れない夜を過ごすことになるのは間違いなしの一冊なのでした。

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