絵画の真贋鑑定ミステリー、美術史もの時代小説、普遍的な「愛」を綴ったラブストーリー。全てがこの一冊に! 小説『楽園のカンヴァス』(原田マハ) ネタバレ感想

楽園のカンヴァス「このミス!2013年版国内編6位」かつ「Kindleセール」の対象になっていたので手にとってみた本作。
アンリ・ルソーの『夢』が表紙を飾っていることや、タイトルに「カンヴァス」という言葉が使われているところから、「美術」「絵画」がからむ物語なんだろうな~とは思っていたけれど、想像以上にどっぷり美術モノでした。
アンリ・ルソーの未発表作品の真贋鑑定を軸にミステリーが展開する本作は、ミステリー小説としての読み応えがあるのはもちろん、アンリ・ルソーが生きた時代をイキイキと描いた美術史小説としても一級品!

巻末の参考文献の量から、本作が膨大な史実に付き合わせた作品であることがよくわかるんだけど、そもそも、著者の原田マハが只者じゃない。
森美術館の設立にかかわってたかと思えば、MoMAで働いていたこともあって。今でも肩書きに「キュレーター」の文字があったりして。
本名なのかペンネームなのかわかりませんが、「マハ」って名前からして、すでにゴヤの名画『裸のマハ』に由来してんのね!(しかも、原田マハ公式サイトのサイト名が「Naked Maha」というド直球!)

しっかりと美術のバックボーンがあったうえで、惜しみないほどの「アンリ・ルソーへの愛」が詰め込まれた本作『楽園のカンヴァス』。
こりゃーもう、ケチのつけようもありません。文句なしにおもしろい!!

作品概要

2012 日本
著者:原田マハ
発行元:新潮社

<あらすじ>
ニューヨーク近代美術館の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない絵を目にしていた。MoMAが所蔵する、素朴派の巨匠アンリ・ルソーの大作『夢』。その名作とほぼ同じ構図、同じタッチの作が目の前にある。持ち主の大富豪は、真贋を正しく判定した者に作品を譲ると宣言、ヒントとして謎の古書を手渡した。好敵手は日本人研究者の早川織絵。リミットは七日間―。ピカソとルソー。二人の天才画家が生涯抱えた秘密が、いま、明かされる。

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感想

86 100点満点 scored by ultimate-ez楽園のカンヴァス

というわけで、ミステリーが好きで、絵画も好きな僕にとっては、大絶賛したい傑作だった『楽園のカンヴァス』

本作は西暦2000年の日本、倉敷の大原美術館で監視員をしている早川織絵の元に、ある仕事の依頼が届くことから始まります。

大原美術館では「アンリ・ルソー展」を計画しており、展示会成功のためにはニューヨーク近代美術館(MoMA)所蔵の『夢』を借りたい。
そこでMoMAに連絡を取ってみると、MoMAのチーフ・キュレーターのティム・ブラウン直々に、「オリエ・ハヤカワが窓口になるなら交渉してもよい」との連絡が。
実は、地方の一監視員に見えた早川織絵は、十数年前に美術界を騒がせたルソー研究の一人者で、“ある出来事”をきっかけに美術界の一線からはしりぞいていた人物だった。
ティム・ブラウンからの指名を受けたことで、胸のうちに秘めていた「アンリ・ルソー」への想いが再燃した織絵は、交渉の窓口に立つべくニューヨークへと旅立ちます。

そこから、早川織絵が経験した“ある事件”を巡る長い回想編が始まるわけですが、回想編の舞台は1983年。主人公は早川織絵ではなくティム・ブラウン。

当時はまだ、MoMAの“アシスタント”・キュレーターだったティムの元へ、美術品鑑定依頼の手紙が届きます。
差出人は、本当に存在しているのかも定かではない都市伝説級の美術品コレクター、コンラート・バイラー。
その手紙は本来自分宛ではなく、自分の上司であるトム・ブラウンに当てたものだと気づいたティムだったが、バイラーのコレクションに触れることで、MoMAのキュレーターとしての地位を固めたいティムは、手紙の指示に従いスイスのバーゼルへと旅立ちます。

バイラーの屋敷で目にしたものは、モネ、マネ、ドガ、ピサロ、ロートレック、ゴッホ、ゴーギャンといった、超有名な作家の見たこともない作品群。
そして、その中でひときわ目立っていたのが、MoMA所蔵のアンリ・ルソー作品『夢』によく似た作品だった。

この、アンリ・ルソー未発表作品のタイトルは『夢をみた』

同じくバイラーに呼ばれた早川織絵と二人、『夢をみた』の真贋判定をするというのがバイラーの依頼であり、本作のメインテーマ。
より優れた評価を下したものに対する報酬は、『夢をみた』の取り扱い権利(ハンドリングライト)。つまり、『夢をみた』そのもを与えられるというわけです。
しかも、ただ真贋鑑定をするのではなく、“ある本”を一日一章づつ読み進め、最終章を読み終えた7日後に真贋を判断するというのがバイラーからの条件。

そこから、ティム、織絵ともに「ルソーへの愛」と、美術人としての知識をフル動員させた真贋判定バトルが展開しつつ、その背景にあるいろいろな人の思惑が激しく交錯する怒涛の7日間が繰り広げられるわけです!

ルソー 夢 オリジナルアートポスター額 高画質 ジグリー刷 ゴールド版画額装 61x50cm
というわけで、1985年のスイス、バーゼルを舞台にした<過去編>と、2000年の<現代編>が入れ子になっているのに加え、鑑定の際にバイラーから渡された”ある本”というのが、1906年〜1910年を舞台としたアンリ・ルソーの評伝で。
<過去編>は、1985年のルソーの絵画の鑑定をめぐる話と、1900年の<ルソーの評伝>が作中作品として並行展開していく構造になっているんです。
時代も場所も異なる三つの話がリンクしているわけで、これはなかなか凝った構造です。

しかも、その評伝が「バイラー保有のルソー作品『夢を見た』が真作なのか贋作なのか?」という謎のヒントになるだけでなく、「1985年当時、まだ評価が定まっていないアンリ・ルソーの作品に、バイラーほどのコレクターがこれほどまでにこだわるのは何故なのか?」「オリエハヤカワと自分(ティム・ブラウン)は、誰のどういう意図によってこの場にたっているのか?」という、複数の謎へのヒントにもなっていて。
さらに、「この評伝を書いたのは誰なのか?」「評伝の各章の末尾に書かれたアルファベット一文字の意味は?」など、評伝がもたらす謎も存在しているわけで。

あくまで『夢を見た』の真贋鑑定の話ではありつつも、それ以外に無数の謎が併走している構成はかなり複雑。
殺人事件は起きないけれど、確かに本作は完全なるミステリー。「このミス!」6位の触れ込みも納得です!

ルソー 「眠れるジプシーの女」 オリジナルアートポスター額 高画質 ジグリー刷 ゴールド版画額装 61x50cmただ、本作の一番の魅力は「謎解きモノ」の部分ではではなく、やっぱり「美術史モノ」としての部分でしょう。
単なる美術史ではなく、その背景にある「生きた人間」がキッチリと描かれていて、アンリ・ルソーという一人の人間の体温までもが感じられるようです。
さらに、「フォーヴィスム」「キュビズム」といった前衛美術が登場し、これまでの美術が徹底的に破壊されるという、「世界が変わる瞬間」がドラマティックに描かれているのも印象的!

「時代小説」というジャンルで「歴史的な事件」をドラマとして描いた作品っていうのは数あれど、「美術史」における事件を描いた小説はあんまり無くて(少なくとも僕は他に読んだことが無かった)。
事実としては知っていた「前衛美術の登場」という歴史的な事件について、これほどの息遣いを感じる文章を読んだのは初めてです!!

僕は現在31歳で、「うちに初めてテレビが来た!」的な革命的出来事を経験したことはないし、それこそ60年代後半の「アメリカン・ニューシネマ」のようなムーブメントを経験したこともない。
そして、そういう世代であることに対して、「ああいう、それまでの価値観がガラっとかわる経験をした人ってうらやましいな~」なんてことを思うこともあったんですが、正直、20世紀初頭の美術界に起こったムーブメントに比べると、それすらぬるい出来事なんじゃないか、と思ってしまいました。

なんせ、この前まで「青の時代」を描いていた天才画家が、突如「アヴィニョンの娘たち」を発表するわけですからね!

きっと、価値観の多様性なんて今ほど認められていない時代だし、「芸術とは?」という問いに数多の芸術家たちが挑みながらも、あくまで「越えてはいけない線」は守られていたはずで。
それが一気に叩き壊された時の衝撃って、一体どれほどのものだったんだろう?

それは今となっては理解することはできないし、追体験できる感覚ではないんだろうけど、本書を読むことで、そのほんの片鱗だけでも味わえたことはこの上ない幸せで。
その感覚を味あわせてくれた『楽園のカンヴァス』に対して、もはや感謝しかありません!

ルソー 「フラミンゴ」 オリジナルアートポスター額 高画質 ジグリー刷 ゴールド額装 61x50cmそして、おそらく本書がこれほどまでに「幸せ」を感じる作品である理由は、著者からルソーへの愛が作品の根底にあるところでしょう。
作中で言及されているように、アンリ・ルソーの評価って未だに微妙な部分があって、美術展で展示されている絵画の横にも、「『日曜画家』とバカにされながらも、ピカソなど後の画家に多大な影響を与え、、、」みたいな説明が付いていることって確かに多いんですよ。
これって、「ピカソが認めたから偉い」という、“絶対的ではない評価”なわけで。
ただ、そういう風に説明しなければいけないほどわかりにくいのがルソーの才能ってことなんです。

実際、「ピカソが認めたから偉い」という評価の仕方は本書でも用いられていて、本書を読んだからといってルソーの才能に対する捉え方が大きくかわることはないと思う。
僕自身、本書を読み終えた今でもなお、「ルソーは天才画家だ!」とは思っていないんです。
ただ、間違いなくルソーのことが好きになったんですよ!

そして、そう思わせたのは本書の構成の力にほかならないわけで。

本書は序盤からずっと「『夢を見た』という作品を守りたい」という想いが根底に流れているんだけど、「守りたい」と思う理由は少しづつ変化してゆきます。

最初は、「それがルソーの真作だから」という理由。
それがやがて、「『夢を見た』の下にピカソの「青の時代」が隠されている」という理由が明らかになってきて。この時点で、300万ドルという具体的かつ経済的な“価値”が、誰でもわかる「この絵を守るべき理由」として提示されるわけです。
ただ、ここからさらに「この絵を描いたルソーの想い」であったり、「自分の絵を潰しても、ルソーに絵を描かせたかったピカソの想い」、「絵のモデルとなり“永遠を生きる”ことを決めたヤドヴィガの想い」など、非常に感情的な理由が表出して来て。
そして、最後には、本当にただただ個人的な想いから『夢を見た』を守りたかった老人の想いへと帰着する。

「敬愛するルソーの絵であり、最愛の女性が永遠に生きている世界」だから、『夢をみた』を守りたい。という想いへ。

『夢をみた』という一枚の絵を巡るいろいろな人の想いと思惑。
いろんな人の「『夢をみた』を守りたい」という想いの変遷を追体験していく中で、最後に帰着した「守るべき理由」があまりにもステキ!

この物語を旅してきて、最後にこういう着地点が用意されて、ルソーを愛さずにはいられないですよ!

正直、『楽園のカンヴァス』は完璧な作品かと言われれば、そうではなくて。
「評伝の各章の最後に付けられていたアルファベット一文字が“とってつけた感”がある(”巻末に”、”一文字づつ”、”あの順番で”掲載されていることに必然性がない)」ところや、「ヤドヴィガが生んだ子どもが、実はルソーとの子どもなんじゃ・・・と匂わせる展開」がちょっとだけノイズに感じられたりもしちゃうんです。

でも、作品全体を包む「愛」が、そういう細かい部分を補っていて、結果的には、「ステキな作品」になってるんで、結果的には「すべてよし!」って感じですよ!

というわけで、美術品の真贋鑑定ミステリーとして「このミス!」のベスト10に入るほどの良作のうえ、この上ないほどの「アンリ・ルソーへの愛」に読者の僕までもが満たされて、非常に心地よくて幸せな読書体験になりました。

今日の感想もまたクソ長くなってしまいましたが、それほどまでに想いがつのる作品だったってことで、許してください!

僕は以前、『モディリアーニ 真実の愛』という映画を観たことがきっかけで、モディリアーニが大好きな画家の一人になったんですが、本作におけるアンリ・ルソーとの出会いもまた、それに近いものがあって。
今後、美術館でアンリ・ルソーの作品を見ると、本書のエピソードを思い出してグッと来たりするんだろうと思います。
こうやって「好きな芸術家」が増えていくのは嬉しいなぁ。

まあ、僕はずっとピカソという画家が大好きで、「パブロ・ピカソは、美術の世界だけじゃなく、人類史上で最も「才能」を持った個体である」と思っているんですが、本書を読んでもその想いは変わらなくて、やっぱり「ピカソ」が一番スゴい画家だと思っているんですけどね。

おまけ

小説としての完成度が非常に高い本作ですが、作中に登場する絵画を知っていると、もっともっと楽しめるのは間違いありません。
というわけで、NAVERまとめを使って、本作に登場する絵画のまとめを作ってみました。
ご一緒にどうぞ!!

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