「言葉」は無限のイマジネーション!! 小説『解錠師』(スティーヴ ・ハミルトン)ネタバレ感想

解錠師 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)『このミステリーがスゴイ!2013年海外編第1位』『週刊文春海外ミステリーベストテン海外部門第1位』という話題性、そして「Kindle版がセール対象だった(すでにセールは終わってますが。。。)」ってことで読んでみた。

「ハードボイルド小説+青春小説」という一見すると相反しそうな題材を,
こうも見事に融合させる筆力がすごいのはもちろんなんだけど、本書の魅力はなんといっても「解錠シーン」の臨場感!

「解錠」って“チマチマした作業”に思いがちなんですが、ここまでの「緊張感」と「緊迫感」を表現できるってスゴい。
もし本作を映像化するとしたら、解錠シーンはやっぱり“チマチマした作業”としてしか表現できない気がするけれど、文学を使えばこれほどまでにダイナミックなシーンになることに衝撃を受けました。

「言葉」っていうのは無限のイマジネーションを生み出す人類の至宝で。
その点では「映像」をはるかに上回る発明だよな~、なんことを思い知らされました。
いや〜、やっぱり「小説」って面白い!!

作品概要

原題:The Lock Artist
著者:スティーヴ・ハミルトン
発行元:早川書房

<あらすじ>
八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に……
非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作

感想

84 100点満点 scored by ultimate-ez解錠師

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)というわけで、前評判通りの傑作だった「解錠師」。
冒頭でも触れましたが、本作の魅力はなんといっても「解錠」の描写です。

「“鍵”を構成している様々な部品が、どのように動くと鍵が開くのか」という客観的なディテールの描写と、「鍵を開けるとき、解錠師は何に注目して何を考えるのか」という主観的な心理描写のブレンドが絶妙で、「自分自身が、今まさに鍵を開けている」と錯覚できるほどに体感度が高い。
正直、読み終えて数時間経った今でもなお、「なんか、俺でも解錠できる気がする!」という変な自信すら湧いてくる始末です。
ま、実際は出来ないんですけど。。。

本書の解錠シーンへのこだわりは、ほとんど「解錠への愛」
というのも、「解錠(≒ピッキング)」って、正直、かなりこじんまりした犯罪っていうイメージがあるわけで。
ミステリー小説ってなんだかんだでエンターテイメント小説なわけなんで、「サイコパス」とか「シリアルキラー」とか、もっとド派手な犯罪者がいくらでも出てくるわけですよ。
そこに、「解錠師」という地味で“職人”的な人物をフィーチャーして、全然地味じゃないアツいエンターテイメント小説を成立させているのは、愛の成せる技です。

考えてみると、本書の原題は『The Lock Artist』
作中でも、主人公の解錠の師である「ゴースト」と呼ばれるおっさんが、度々「解錠は芸術家の仕事」だとか、「芸術家なのだから、それ以外の仕事はやらなくていい」など、解錠への“愛”と“敬意”を見せてくれるんですが、その思想はまさにこの『The Lock Artist』というタイトルに凝縮されているんだと思います。

ちなみに邦題は『解錠師』なわけで、一見すると『The Lock Artist』に比べて“普通”というか“愛が無い”ようにも思えてくる。
でも、「開錠(鍵を開けること)」ではなく「解錠(鍵を“破壊せずに”開けること)」という言葉を使っているあたり、ちゃんと愛を感じる良い邦題なんです!

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というわけで、“解錠への愛”が新鮮な魅力を生んでいる『解錠師』ですが、“解錠愛”をテーマにしながらも、しっかりと骨太ハードボイルドなミステリー小説であるってところも、間違いなく本作の魅力。
そして、淡々とした語り口と無口な主人公ってまさにハードボイルドものの鉄板設定なんだけど、本作においてはその“無口さ”こそが、少年の成長を主軸にすえた「青春小説」として機能しているところが本作の巧いところ。
というのも、本作の主人公マイクは、幼いころに経験した“ある凄惨な出来事”のトラウマにより言葉を発することが出来ないんです。
トラウマにより“無口にならざるをえない”わけなんだけど、その背景があるからこそ、「心を閉ざした少年の渇いた日常を描いたハードボイルド小説」「世界で一人だけ心を許せた少女の存在により“救い”を得た少年を主役にした甘酸っぱい青春小説」が、違和感なく成立しちゃうわけです。
いや〜、巧い!

さらに話の構成もかなりテクニカルで。
「マイクが解錠師になるまでの少年時代」と「解錠師になってからの日々」の二つのエピソードを交互に語りながら進んでいく構成なんだけど、その2つの話は「ある事件で逮捕されたマイクが、刑務所内で書き綴った回顧録」という結構複雑なものです。
この構成により、「解錠師になるまでのエピソード」は並行する「解錠師になってからのエピソード」によって常に補完され、「その後、何が起こるのか」が読者に示されているわけで。
そのため、読者は「マイクが進もうとしている道」の先に「良くない結果」が待っていることを知っていて。でも、それを止めることが出来ない。
本当はいくらでも違う道を選べるはずなのに、「自分にはコレしかない」と思い込むマイクの姿にはもどかしさばかりが募ります。
そして、マイクが「負の連鎖」に巻き込まれていく原因が少年時代に経験した“ある事件”に関係があることは間違いないんだけど、肝心の“ある事件”の全貌については終盤まで語られない。

「マイクの未来に何が起こるのか」はわかっているのに「過去に何が起ったのか」がわからないという感じでしょうか。
これが適度なフラストレーションになって、ページをめくる手が止まらないんです!
いや~、とことん巧い!!

さらに本作の構成が見事なのが、「ある凄惨な事件」の真相が明かされる部分。
終盤まで徹底的に伏せられていた「ある事件」の真相は、思いのほか淡々と明かされます。
事件は確かに凄惨で、マイクが心を閉ざす理由としては納得のいくものながら、「過去」を語るマイクの気持ちは静かで。
本来ならば感情が剥き出しになるような出来事のはずなのに、マイクの心はものすごく穏やかなんです。

そんなマイケルの感情が爆発するのは、「世界で唯一の理解者」であり「最愛の女性」でもあるアメリアに対して“何も言えなかった”時なんですよ!

マイクの失語症は心因性のもので、「本当に言葉を話す必要があるとき」が来れば話すことができると信じていた。
それなのに、「どうしても伝えたい人」「どうしても伝えたい言葉」を伝えることが出来なかったとうい絶望感。
言葉を失ってしまうほどの“地獄”すらも冷静に捉えることができるマイケルが、作中でたった一度だけ感情を爆発させる。
だからこそ、その“絶望”の深さに胸をかきむしられるようでした。

ああ、この痛み!これこそ、本作が一級品の青春小説である証ですよ!!

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欠点を上げるとすれば、マイクの過去、そしてマイクが巻き込まれていく世界があまりにも現実離れしていて、リアリティに欠けるというところくらいでしょうか。
(海外ミステリーってところで「もしかしたら、海外だとこういう世界もあるのかも。。。」と思えなくもない程度ではあるんですけどね。)
ラストの展開も、「10年服役中のマイケルをずっと待っている」って、さすがにアメリアという人物像が都合よすぎな気がしないでもなくて。
しかも、「一度他の人と結婚しかけたけど、やっぱりマイケルが忘れられない・・・。」みたいなエピソードがあるため、アマンダの結婚を知ったマイケルが見ている夢(妄想)なんじゃないかとすら感じてしまって。。。

まあ、「エピローグが妄想っぽい」っていのは、僕がゲスい人間だからそう思うだけで、あれほどの絶望と隣り合わせに生きてきたマイクなんだから、まあ最後にこういう「希望」を感じるエンディングがハッピーでステキ!と思うべきなんでしょう。。

さらに、(これは超個人的な想いなんですが、)マイケルに金庫破りを教えた「ゴースト」という人物のキャラクターがすげー好みでして。
ゴーストとマイクの「師匠と弟子エピソード」をもっと深く描いて欲しかったな~、なんてことを思ってしまいました。。。そう、『ベストキッド』的な展開を!

またも話が長くなってしまいまいましたが、そんな感じの『解錠師』。
解錠シーンの類を見ない緊迫感と、マイケルの秘密をめぐるシナリオで、一気読み必死の傑作でした!
上述したような不満がちょっとだけあるものの、Lock Artistの仕事っぷりを読んでるだけでも痺れまくりで。無限のイマジネーションを生み出す「文学」の魅力を再確認するという意味でも、非常に満足の一冊でした!

全力でオススメです!

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