実在した悪魔<クソ野郎>を目撃せよ! 映画『デビルズ・ダブル ある影武者の物語』ネタバレ感想

Poster 1ギラギラでブリンブリンのジャケットにひかれてレンタルした本作『デビルズ・ダブル』。
はっちゃけたド派手な映画を想像していたんだけど、ウダイ・フセイン(サダム・フセインの長男)の影武者にされた実在の男性ラティフ・ヤヒアの手記をベースにした、超社会派な映画だった。
何よりウダイという男のキャラクターが強烈で、「気に入った女は犯す」「気に入らない奴は殺す」「趣味は拷問」のろくでなし。
父親のフセインからも半ば見捨てられてはいるものの、言ってもフセインの息子だから悪行はまかり通っていて、まさに「悪魔」としか言いようの無い人物。

そっか!
ジャケットのインパクトしか見てなかったけど、「デビルズダブル」って「悪魔の影武者」ってことか!!

作品概要

2011/ベルギー 上映時間:109分 R18+
原題:The Devil’s Double
配給:ギャガ
監督:リー・タマホリ
出演:ドミニク・クーパー、リュディビーヌ・サニエ

<あらすじ>
ウダイに顔が似ているという理由から、家族の命と引き換えにウダイの影武者になることを強制されたラティフ。自ら生死を選べる自由もなく、絶対的な権力と莫大な資産、そして狂気に満ちたウダイに寄り添い続けるラティフは、恐ろしい現実を次々と目の当たりにしていく。

感想

81 100点満点 scored by ultimate-ezデビルズ・ダブル ある影武者の物語

というわけで、”悪魔のプリンス”ウダイ・フセインの影武者ラティフの物語である本作『デビルズ・ダブル』。
冒頭にも書いたとおり、ウダイという男のキャラクターがとにかく強烈な作品だった。

ウダイは、ある意味で自分の「欲」にどこまでも忠実。
気に入った女がいれば車でさらって(本人はナンパのつもり)薬漬けにしてヤリまくり。
薬がキマリすぎて死んじゃうこともあるけれど、そのときはその辺に捨てておけばOK!、というノリの男。

自軍の兵士の結婚式に出席したかと思えば、披露宴中の花嫁を気に入っちゃって、そのまま自分の部屋に連れ込んでレイプ。
絶望した花嫁が花嫁衣裳のまま自分の披露宴のパーティー会場へ投身自殺、という悲劇を生み出してみたり。
父親の友人が偉そうでムカツイたら、おめでたいパーティーの最中だろうが腹をかっさばいて内臓飛び出し系の惨殺もいとわず。
気に入らない奴は拷問にかけて、「後で見直したいからビデオでちゃんと撮ってて!!」と大はしゃぎ。

いやー、映画とはいえ、なかなかのクソ野郎
特に、花嫁レイプのくだりは、花嫁役の女優さんの表情の演技がスゴすぎて、かなりズッシリくるシーンになっていた。

しかも、ウダイという人物がすげームカつく理由が、彼の行動原理が非常にシンプルであるってところにもあるんですよ。
「あいつとヤりてー」「あいつ殺してー」なんてことは、そりゃあ僕だって思うことはあるわけで。
であるからこそ、彼が行う「えげつない行為」の数々にちょっとだけ共感できてしまうところがあったりして。
もちろん、普通はそれを行動には移さないわけだけれど、自分にも同じような「欲」がある限り、「彼と同じような権力を持った時、彼と同じような行動を取らない」とは言い切れない気がしてしまうんです。

「悪」を描いた映画はいろいろあって、ほとんど「悪魔」級の悪を描いた『ダークナイト』とか、生々しくて凶悪な人物を描いた『冷たい熱帯魚』など傑作もいろいろあるんだけど、ああいう映画の「悪」は、基本的に理解や共感がでいない人物。
だから「こういう奴に巻き込まれたら怖いな~」という恐怖を感じるわけなんだけど、本作の「悪」であるウダイは「巻き込まれたら怖い」と同時に、「ことによっては、自分がそうなってしまうかもしれないことが怖い」という決定的な違いがあって。

いやー、なんだかんだ言って、何の思想も持たない本能のままの「悪」って一番怖いな~、なんてことを思わされてしまった。

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また、本作の決定的な魅力は、主演のドミニク・クーパーの演技。

ウダイ本人と、影武者であるラティフの両方を演じているんだけど、一人二役だから見た目はもちろん同じなのに、画面に映っている人物がウダイとラティフのどちらなのかを完全に見分けられるってのがスゴイ。
これは、顔の表情と身振り手振りの仕方で、完璧に個性を演じ分けているということ。

ただ、さらに驚愕なのが、「ウダイを演じている時のラティフ」までもが、見分けられるというところ。
「ウダイを演じている」わけだから、表情や身振り手振りはウダイと同じはずなんだけど、何かが決定的に違っていて、「これはウダイではなく、ウダイを演じているラティフだ!」とはっきりと認識できるんですよ!
これはもはや、「纏っているオーラを変えることで演じ分けている」としか説明がつかない。
いやー、すごい!!

ドミニク・クーパー以外の演者も、有名な役者は少ないながらもいい味を出していて、上述した「花嫁が結婚式中にレイプ⇛自殺」という最悪の立場におかれた兵士を演じた役者の顔なんか、やたらと実在感のあるキャラクターだったり。
そんなわけで、魅力を感じる役者が多い映画ではあったんだけれど、何にせよドミニク・クーパーが光りすぎていた。

他の出演作も早急にチェックしたいもんです!!

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というわけで、ウダイという男のキャラクターと、それを演じたドミニク・クーパーの凄さが際立つ作品なんですけど、ストーリー自体は正直不満なところも。

一番の不満点はやっぱり、ウダイに対する完全な復讐がなされなかったところ。

ラストの展開は、ナンパ中(序盤で女の子をさらって薬漬けレイプ殺害したときと同じ流れ)のウダイをラティフが銃撃。⇛しかし、助手席の女の子がウダイをかばったせいで銃弾が逸れ、ウダイのちんこだけを吹き飛ばすという流れで。
ちんこをぶっ飛ばすというのは、ウダイにとっては一番の復讐になったのかもしれないし、エンディングで「その後ウダイは死にました。ラティフは幸せに暮らしています」というテロップが出るんだけど、これじゃあ全然スッキリしないんだよ!!!

やっぱりウダイだけは、ラティフの手によって、スカッとぶっ殺して欲しかった。
しかも、ちんこをぶっ放した後、じゅうぶんなタイミングもあったわけだし。
(まあ逆に言うと、SPたちがウダイを守る時間も十分にあるんですけどね。)

とにかく、最後のウダイ暗殺計画のシーケンスは全員の行動がなんだかモヤーっとしていて、計画自体も「ホントにそれで手順あってるの?」と疑わしくなるような適当な計画だったりして。
なんかリアリティのないシーンだなーと思って調べてみると、やっぱりというべきか、ウダイ暗殺計画の部分だけは完全なフィクションみたいです。

うーん。
別にスッキリするわけでもなく、何かしらのオチがつくわけでもなく、このラストシーンが必要だったのかはかなり微妙でした。。。

さらにもう一つ、本作のヒロインである、ウダイの恋人(というか情婦)サラブがすげームカついてしまって。

ラティスと惹かれあい、共にウダイの元から逃げることになるんだけど、そこからのサラブがホントに嫌な女なんですよ!
いざ逃げはじめた段になって、「いやー、実は私子どもがいるんだよね」とカミングアウト。
僕ぐらいの器だとそこでキャパオーバーなんですけど、ラティスはそれを受け入れる。
ただ「2人でウダイから逃れるのが精一杯で、子どもまで救う余裕がない」と言えば「ヒドい!!」と被害者面しだして。
さらにラティスを華麗に裏切って、ふたりの居場所をウダイ側に密告。
それがラティスにばれて責められると、「あなたも結局私を怒るのね!何よウダイと一緒じゃない!!!」と無茶苦茶な理論でキレまくり。

なんなんだこの女!!!

こいつがヒロインってだけで、もう全然盛り上がらないんですよ!!!

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ただ、そういう欠点を補って余りあるような超アツイ展開もありまして。

それは、ラティスと父親の話。

そもそも、ラティスがウダイの影武者を演じることを引き受けたのは、「お前と俺は昔から似てるって言われてたよな。お前、俺の影武者になってよ。嫌ならやらなくてもいいけど、家族殺すよ!」という強引な要求の結果。
ウダイの蛮行に腹を立てつつもウダイに従い続けていたのは、「家族」という人質があったからこそ。

それでも、ついにはサラブと逃げることを決意するラティスなんだけど、すぐにウダイからの電話がかかってきて電話口には拷問にかけられているであろう父の声が聞こえてくる。

「息子に助けを求めろよ(ニヤニヤ)」と、ラティフとの電話を父親に繋ぐんだけど、そこでの父から息子への言葉は「助けてくれ」ではなく、「ウダイに『くたばれ!』と言ってやれ!」という言葉。
自分自身のあらゆる感情や、父からの想いを受けて、ラティスはウダイに対して「くたばれ!」という言葉を発するわけですよ。

自分の命をかけて息子を解き放った父の想い。
父の命がけの想いを受けて、ウダイの呪縛から離れ「正しき道」へ進むことを決めたラティス。
結果、実にあっさりと父は殺されるんだけど、その想いは確実に息子へと伝わり、さらにはイラクという国自体をよき方向へと導いていくというわけで。
この「尊さ」やばすぎる!!!

そして、だからこそ、チンコをぶっ飛ばすだけじゃなく、ラティスの手でしっかりとウダイをぶっ殺して欲しかった。
もちろん、改めて「くたばれ!」という言葉を添えて。

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というわけで、ウダイ・フセインという人物像、それを演じたドミニク・クーパーの魅力など「ここは良かった!」と思う部分は非常に多いものの、「ここはちょっと」と不満に思う部分も同じだけあるような映画だった。
ただ、「良い」「悪い」はあれど、映画を見ている2時間の間常に何かを考えさせられる映画で、ぼ〜っと画面を眺めているだけの時間が極端に少ない映画、言うなれば非常に密度が高い映画だったのは間違いない。

イラクという国を巡る情勢や、当時の時代背景を知っていればもっと楽しめたのかもしれないけれど、そこに対する知識があまりない僕であっても「ウダイ」という強烈なキャラクターの力だけで、存分にその密度を堪能できる映画だった。
(ちなみに僕のウダイ・フセインに対する前提知識は、「猪木と対談したことがある」ってことを知っている程度でした。)

見終えた後は爽快感というよりは疲労感を覚える映画なのも事実だけど、このウダイ・フセインという「悪」を目撃するという点だけでも価値がある一作なのでした。

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