“希望”とはかくも残酷なものなのか・・・。映画『わたしを離さないで』ネタバレ感想

わたしを離さないで [DVD]

3人の少年少女の感情の機微をとらえる冷静さと優しさを混在させたような客観的な視点と、行間や余韻を感じさせる映像の美しさが印象的で、全体的に「とても丁寧に作られている作品」だと思った。
メッセージそのものを直接ぶつけることはなく、観た人それぞれが様々な感情を抱くような映画で、見終わった後にしばらく引きずるものを残すような作品。いわゆる「名作」と呼ばれるような作品であることは間違いないだろう。

ただ、そういう映画っていうのは見る人を選ぶ映画でもあるわけで。「印象的」っていうのは、それだけ「アクが強い」という意味でもあるわけで。
まあ、はっきり言って僕はこの作品がどうしても許せなくて、胸糞悪くて、イヤ〜な気分になっちゃいました。

作品概要

2010/イギリス・アメリカ 上映時間:105分 G
原題:Never Let Me Go
監督:マーク・ロマネク
出演:キャリー・マリガン、キーラ・ナイトレイ、アンドリュー・ガーフィールド

<あらすじ>
外界から隔絶された田園地帯に佇む寄宿学校ヘイルシャムで学ぶキャシー、ルース、トミーは、絵や詩の創作活動に励みながら、“特別な子ども”として育てられた。18歳になってヘールシャムを出た3人は、農場のコテージで共同生活を始めるが、ルースとトミーが恋人同士になったことで友情が崩壊していく。

感想

39 100点満点 scored by ultimate-ezわたしを離さないで

「クローン人間」「臓器提供」を軸に展開する物語ながらSF映画というわけではなく、あくまで「長くは生きられない運命の若者たちが、“生”と向き合うこと」を主題とした映画。
「特殊な状況におかれた特別な人たち」が主役の話なんだけど、実はとても「普遍的なもの」を語っているというのは、個人的に大好物な語り口だ。

ただ、前述の通り、僕はこの話がどうしても許せなくて、胸糞悪くて、イヤ〜な気分になってしまったわけで。
その最大の理由っていうのは、主役の3人が子供時代を過ごす学校「ヘールジャム」の気持ち悪さにある。

<以降、物語の核心にせまるネタバレがあります。>

本作は、わずかながらサスペンス的な要素を持った映画で、大きく2つの謎が順次明かされる構成になっているんだけど、そのがどちらもものすごくキモチワルイ。

あっさりとネタバレを書いてしまうけれど、1つ目の謎というのが、ヘールジャムの生徒は全員、臓器提供を目的に生を受けたクローン人間(つまり、誰かの“スペア”)であるということ。

主人公たちはある時、その事実を知ってしまうんだけど、その理由が最悪で、一人の教師が「生徒たちのためを思って」秘密を暴露してしまうのだ。
言うまでもないことだが、これは生徒のためでも何でもない。罪悪感を我慢できなかったバカ教師の自己陶酔だ。
自分自身の気持ちを楽にするために、生徒全員を混乱させ、絶望のフチに叩きこむというこの女教師!
クズすぎる!!

その後、秘密をばらしてしまったことで女教師は教職をクビになるんだけど、辞めさせられたとはいえ、生徒たちと最後まで向きあうことから逃げるという最悪の姿勢を取ったことが輪をかけて最悪。
どうせあの女、辞めさせられた後も自分の行動の邪悪さに気付かず、「生徒たちのために、職を辞してまで真実を伝えた!」と心から思っていそうなのが本当に不快!

Never Let Me Go 01

ただ、2つ目に明かされる謎はもっとひどくて邪悪だ。

主人公たちは成長し、ヘールジャム以外にも同様の施設がいくつかあることを知る。
そして、ヘールジャムでは当たり前のように行われていた「詩」や「絵画」の授業が、他の施設ではまったく行われていなかったことも知る。
そしてそこから、子供たちの間である噂が流れ始めるのだ。
それは、「ヘールジャム出身で心から愛し合っている二人は、臓器提供の手術の執行を延期することができる」というもの。
そして、「二人の愛が真実であること」を証明するために使われるのが、心が反映される「詩」や「絵画」というわけだ。
主人公たちは三角関係に揺れながらも、真実の愛を証明するためにヘールジャムへ向かう。
もちろん、「絵画」を持って。

そこで2つ目の謎が明かされるんだけど、ここもあっさりとネタバレすると、謎っていうのが「『愛し合っている二人が救われる』という噂が、『嘘』」ってことなんですよ。

じゃあ、どうしてヘールジャムでは「詩」や「絵画」の授業が行われていたのかっていうと、ヘールジャムでは「クローン人間にも心があることを証明する」という実験をやっていたからなんですよ!
これがもう、ほんとうに、心から許せない!!

ヘールジャムの大人たちは「クローン人間にも心がある」ってことを証明しただけで、何をするわけでもない。
「“かわいそうな子供たち”は本当にかわいそうでした」ということを証明しただけで、子供たちを助けるわけではないのだ。

なんなんだこれ!こんなもん、完全なるマスターベーションじゃないか!

少なくとも子供たちを苦しめて暮らしているのなら、その業を背負うのが大人の責任だろう!
それを、「私は本当はわかってるのよ」的なことを言ってごまかしているお前らみたいなやつらが、一番腐ってるんだよ!!

と、激しい怒りが沸き上がってしまった。

結局、「救い」を得られなかった3人は、それぞれに「その時」を迎える。
自分の死も友達の死も恋人の死も受け入れて、それでもなお静かに微笑んでいる主人公の表情がとにかく印象的だった。

拘束されたり、監禁されたり、過激な洗脳を受けたわけではなく、逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せる環境にいた子供たち。
二人の愛を証明して“生”にしがみつこうとした子供たちが、結局は、ただ静かに「死」を待つしかないというのが本当に悲しい。

「死ぬため」に生まれてきたヘールジャムの子供たちは、正規の方法で生き延びることが出来ないとわかった今、やっぱり「死ぬこと」でしか存在価値を示せないし、承認欲求を満たせない。
それが、あまりに辛かった。

しかもね。子供たちがしがみついた「噂」って、「ヘールジャム出身で心から愛し合っている二人は、臓器提供の手術の執行を延期することができる」っていう噂で、決して運命から逃げられるほどの「救い」じゃないんですよ。
「あとほんの少しだけ生きたい」という、とても小さな希望なんですよ。
でも、その小さな「救い」すら与えず、逆に子供たちに「生きたい」という感情を自覚させて、真の絶望を味あわせてしまうヘールジャムの大人たちに、あらためて激しい怒りを覚えてしまった。
どうせ殺すのなら、静かに、穏やかに死なせてあげろよ!!!

Never Let Me Go 03

というわけで、ひたすらに「不満」と「怒り」が噴出しまくった映画、『わたしを離さないで』。

とはいえ、作品のクオリティに関しては何の不満もないし、監督はじめ製作者の志が低いわけでもない。
むしろ、温かみを感じる映像の美しさには感動を覚えるレベルだった。

ただ、物語の中身に対して激しい怒りを覚えているわけなんだけど、「作品として不満がないが、中身について激しく感情が揺さぶられた」と考えると、それってものすごい力を持った映画なんじゃないの?とも思えてしまうわけで。
いや、でもこんな残酷な映画を「いい映画」なんて言いたくないぞ、という想いも揺ぎないわけで。

うーん。「いい映画」って何なんだろう?

「映画の感想」なんてものをブログに書いている僕にとって、非常に本質的なテーマにぶち当たってしまったわけだが、そういう本質に迫ることが出来る映画っていうのはやっぱりすばらしいのかもしれないが、、、でもやっぱり、この怒りが、、、(以下略)

うーん。映画って難しい。。。

ただ、単に僕が単純すぎるのかもしれないけど、やっぱりこの映画の大人たちはもっと責められるべきだと思う。
あのクズたちが彼らの思う善行を続けることで、やがて社会のシステムが変わり、結果的にはより多くの命を救うことにつながるのかもしれない。
でも、その犠牲者であるヘールジャムの子供たちは、一般論の誰かではなく、目の前に生きている誰かなわけで。
その「誰か」に対し、あまりに視点が寄り添っているせいで、さすがにちょっと残酷すぎるなーと思ってしまうんだよな〜。
あぁ、あいつらを裁きたい!!!

そんなわけで、感想としてのまとまりはまったくないんだけど、個人的にはやっぱり「嫌いな映画」
ただ、ここまで感情が揺さぶられたという点では、映画の持っている力を実感できたわけで。
そういう意味では、本作を見たことに確かな意味はあったなー、と思うのでした。

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