あの超名作ゲームが小説化!“小説版・将棋”―『ダークゾーン/貴志祐介』ネタバレ感想

ダークゾーン (ノン・ノベル)新世界より」「悪の教典」と、ここ数年の作品の人気っぷりがすごい貴志祐介さんの新作ノベルズ。
“強いメッセージ性”だとか、“深く考えさせられる要素”ってのはまったく無いかわりに、純度100%のエンターテイメント小説として、本作は一つの境地なんじゃないかと思える。
しかしまあ、本当にとんでもないプロット。
考えつく人は他にもいるかもしれないけど、このプロットをここまでの精度で世に出せる作家なんてそうそういないよなぁ。
超楽しくて、超アツい。“本来、読書では味わえないような感覚”を味わえる逸品でしたよ!!

作品概要

2012 祥伝社 新書判:489ページ
(2011年刊行単行本のノベルス版)
著者:貴志祐介

<あらすじ>
「戦え。戦い続けろ」将棋プロ棋士の卵・塚田は、赤い異形の戦士と化した十七人の仲間と共に、闇の中で目覚めた。謎の廃墟を舞台に開始された青い軍団との闘い。敵として生き返る「駒」、戦果に応じた強力化など、奇妙なルールのもと、現実世界との繋がりが見えぬまま続く七番勝負。それは、まるで異次元の将棋だった。頭脳戦、心理戦、そして奇襲戦。コンクリートの要塞“軍艦島”で繰り広げられる地獄のバトル。これは神の仕掛けか、悪魔の所業か。エンターテインメント界の鬼才が、圧巻の世界観で贈る最強長編!

感想

78 100点満点 scored by ultimate-ezダークゾーン

冒頭に書いた通り、本作『ダークゾーン』は純度100%のエンターテイメント小説として、かなりの傑作。
本作の特徴的な点でありスゴイところとして、大きく三つのポイントがあると思う。

まずは、本作が文学的に表現されたバトル小説であるという点。

本作は、謎の空間“ダークゾーン”で異形の戦士に変化させられた仲間たちが、同じく異形の敵と17人vs17人の戦いを繰り広げるバトル小説。
多くのキャラクターは“能力”という枠を大きく逸脱した力を持っていて、『ジョジョ』や『ハンターハンター』的な“能力バトルもの”というよりは、『ロード・オブ・ザ・リング』の最終決戦のようなファンタジー世界の戦いに近い雰囲気を持っている。
個人的には、山田風太郎の『甲賀忍法帖』を思い出した。

そんなわけで、基本的には火や毒をふいたり、怪力パワーで建物をぶっ壊しながらのダイナミックなドンパチ劇が描かれるんだけど、それがちゃんと「読み物」として成立しているのが素晴らしい。
小説なんだからそんなの当たり前と思う人もいるかもしれないけど、昨今の小説ってそうでもない作品が多かったりするじゃない。
「ドンドンドン!バシュバシュバシュ!」と、戦いの激しさを擬音だけで表現しちゃってるような作品があったりするじゃない。

ただ、“文章によって表現”と書くと、くどくどと説明的な文章を想像するかもしれないけれど、本作は戦いにおけるスピード感は無くしていないんですよ。
この辺りは、「さすが!うまい!」という感じでしょうか。

そして2つ目のポイントは、本作における戦いが、“将棋”をベースにしたものであるという点。

細かい部分はもちろん違うんだけど、複数の「歩兵」がいて、特殊な力を持った「役駒」がいて、「王」がいる。
「王」を取る(殺す)ことが戦いの勝敗を決める。
条件を満たすと、「役駒」は強化される。(将棋における「成り」)
などなど、将棋をちょっとだけアレンジしたようなルールで戦いは進行する。

最近DVDが出た『バトルシップ』って映画は、「レーダー作戦ゲーム」というボードゲームが原作だったが、本作はあの企画の「将棋版」といった感じだ。
いやいや、2012年のここにきて、「将棋」の小説化ですよ。驚きです。

さらに、本作はプロ棋士を目指す男が主人公で、異世界でバトルを繰り広げながらも、現実世界での棋士社会のエピソードも盛り込まれていて。
それは「諦めきれずに夢を追いかけ、もがく若者」を描いた苦々しさの募るエピソード。
夢追い人を描いた作品は数多くあれど、棋士を目指す若者の話を描いた作品って見たことがなく、狭くて特殊な棋士社会も新鮮だった。

「将棋」という誰もが知っているゲームを軸に据えたことで、複雑なはずの「能力バトル」が把握しやすくなるという効果がある一方、逆に、あまり人に知られていない棋士社会のエピソードで新鮮さも味わえる。
この「将棋」というチョイスがかなりうまく機能していて、ここでもまた「貴志祐介、さすが!」といった感じでしょうか。

そして3つ目。これこそが三作の最大の特徴だと思っているんだけど、本作のバトルが七番勝負であるという点。
これが、スゴイ。

本作はプロローグと呼べるエピソードはほとんどなく、主人公たちがいきなり戦いの真ん中に放り込まれたような形で始まる。
前述した将棋風のルールや、個々の駒の能力などは本人たちすら知らないような状況だ。
そんな中、時に「後出しじゃんけん」的に、時に「ご都合主義」的に、ルールや能力が明かされる場面は少なくない。
戦いをテーマに描いた物語で、戦いの根幹を成す「ルール」を後出しするって、本来ならばものすご〜〜く萎えることのはず。

ただ、本作がすごいのは、「実はこういうルールでした。」という後出しの後に、「では、それを踏まえてもう一局!」と展開していく点にあるんですよ!

まったく同じメンツ、同じルールでの戦いが七戦!
先述したような「後出しじゃんけん」や「ご都合主義」展開だって、結局は次局での制限になるわけだし。
登場人物たちも前局の記憶をしっかり残しているため、局を重ねるごとにどうにも動けないジリ貧状態に陥っていきそうなもの。
実際、千日手のジリ貧に陥る局もあるんだけど、最終局まで次々に新しい戦略が展開していくのが見事。

この“七番勝負”っていうアイデア。こんなの思いついたとしても、それを実現できる作家が他にいるんだろうか?
貴志祐介のアイデアの引き出しは無限なのか?
いやいや、ホントに貴志祐介恐るべし!!って感じだ。

以上の3点をもって、本作は「常軌を逸した傑作能力バトル小説」と宣言しちゃいます!

いつもの貴志祐介作品と同じく、「得るものがあった」とか「考えさせられた」と思えるような作品では無いんだけど、純粋なエンターテイメント小説としておもしろく、前例のない突飛なアイデアも多数盛り込まれてる傑作。

他にも、前作『悪の教典』にもちょっとだけ名前が出ていた稲田燿子ってアイドルが登場して、「へー、貴志祐介の作品にもこういう繋がりがあるんだ〜」と驚いたり。
異形に変化した仲間や敵の名前が、「ゴーレム」とか「サラマンドラ」とか「バジリスク」「ラミア」など、幻獣としては比較的有名な名前が使われていたのに、「ゴーレム」が条件を満たして強化された時の名前が「ブルガサリ」で、「えーーー!!ブルガサリって、北朝鮮のあのトンデモ怪獣映画のアレかーーい!!!」と驚いたり。(アレ→プルガサリ~伝説の大怪獣~
そんな小さな驚きもふんだんに盛り込まれていて、見所は満載なのでした。

というわけで、「将棋の小説化」という偉業を成し遂げ、しかも「七番勝負を描く」という離れ業を見せ、しかも純粋に「小説としておもしろい」という三拍子がそろった本作。
ただただ楽しめる小説が読みたい!と思っている人がいたら、全力でおすすめしておきたいのでした。

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